本記事では、岸田内閣が掲げる「新しい資本主義」の実現のために、何から手を付けるべきかについて結論を出したい。それにはまず、「日本は本当に資本主義なのか?」という問いから始める必要がある。そして、資本主義や新自由主義的な世界に不可欠で、今の日本に足りないものが何なのかを考えたい。(経済評論家、楽天証券経済研究所客員研究員 山崎 元)
日本は「新自由主義」か?
そもそも「資本主義」か?
読者への問いから始めたい。「日本は新自由主義だと思いますか?」。
回答を想像すると、半分くらいの人が今の日本は「新自由主義的だ」と感じ、残りの半分くらいは「新自由主義とは違う」と考えているのではないか。
経済のグローバリゼーションは、先進国では、勤続年数が短く、職業スキルが十分身に付いていない、主に若年層の雇用に打撃を与える。ただし日本では、失業率の数字に表れるよりは非正規労働者が増える形で雇用は「質的な打撃」を受けた。そして、主に非正規労働者として働く人たちは、取り替え可能な「労働力商品」として企業に扱われており、厳しい条件下で働いている。
グローバリゼーションの肯定が新自由主義的であると考えるなら、彼らは日本のシステムを新自由主義的だと思って不思議はない。非正規労働の拡大も、自由な経済取引の拡大だから新自由主義的だろう。そして、非正規労働者は雇用が不安定なまま相互に競争させられるので、おしなべて賃金は抑えられていて労働条件は厳しい。
かつてカール・マルクスは、彼の想像する資本主義の賃金決定として、労働力を再生産するコストに賃金が決まると考えた。しかし、主に非正規労働者として働く人々の労働条件は、子どもを作って育て、新しい世代の「労働力を再生産するコスト」を下回る場合が多いように見える。労働者は目下、かのマルクスが想像した以上に搾取されているのかもしれない。これは「ブラック資本主義」とでも名付けたらいいのだろうか。