2つ目は「半導体は多額のお金が動く巨大産業である」という点です。半導体市場は世界的に活況を呈しています。2022年の世界における半導体製造への設備投資総額は1904億ドル(IC Insights 発表)で日本円にして約25兆円といわれていますし、2021年に熊本県に建設されることが発表された半導体ファウンドリ(半導体チップの製造を行う企業)世界最大手の台湾TSMC(台湾積体電路製造)の半導体工場は約9800億円の建設費が投じられるといわれています。原子力発電所の原子炉1基の建設費が4000億円前後であると考えると、半導体製造工場の建設がいかにコストのかかるプロジェクトであるかが想像しやすいと思います。半導体製造工場は発電所や化学プラントのように広大な敷地にある巨大な設備になるわけではありません。そのため新たに土地を取得しなくても製造設備を増強できますが、需要が増えたからといって簡単には製造能力を増やせないのです。
さらにいえば、たとえ半導体製造工場を新設したとしてもすぐに半導体不足が解消されるわけではなく、半導体製造工場を建設して半導体を生産するには、莫大なお金と時間が必要です。半導体不足に対応しようとして半導体製造工場の新設を決めたとしても、工場の新設を決めてから生産を始めるまでにおよそ2~3年はかかり、生産を始めても出荷できる製品になるまでには数百を超える工程を経る必要があり、さらに数カ月の期間を要します。そのため世界の半導体市場では常に、自分たちが必要とする半導体を作ってくれる工場の取り合いになっています。
3つ目は「半導体のサプライチェーンは非常に危ういバランスの上に成り立っている」という点です。半導体は、世界経済や世界情勢の影響を特に受けやすいという特徴があります。なぜなら半導体を製造するため、また流通させるためのネットワークは世界中に張り巡らされているからです。
2020年2月頃から新型コロナウイルスによるパンデミックが世界に広がり始め、さまざまな経済活動が停止したため、自動車業界は「これでは新車が売れなくなる」と、当初は減産計画を立てて半導体の発注量を減らしました。これが半導体不足で自動車が生産できなくなった一番の原因です。自動車業界が半導体の発注量を減らしたとき、世界では半導体の供給が不足していたうえに、巣ごもり需要の効果で動画配信などの需要が急激に伸び、タブレット端末やパソコンなどの出荷台数が増えていったのです。そのため自動車の減産によって空いた半導体製造ラインは、すぐさまほかの業界が取得していきました。