中国当局による
ウイグル族のスマホ監視

 国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」が今月、新疆ウイグル自治区の中国当局が、少数民族ウイグル族のスマートフォンを大規模に監視してきた、とする報告書(https://www.hrw.org/ja/news/2023/05/04/china-phone-search-program-tramples-uyghur-rights)を公表した。

 ヒューマン・ライツ・ウォッチは、新疆の中国当局が収集していたとみられるデータを入手、分析したところ、地元政府が市民に対し、スマホにインストールするよう指導してきた監視アプリ「浄網衛士(Jingwang Weishi)」を使って、2017年から2018年にかけての9カ月間、新疆ウイグル自治区の首都ウルムチ(人口350万人)で、合計約120万台の携帯電話に保存されていた1100万件近くの情報を収集していたことが確認されたという。

 さらに、同団体は、中国当局がマークした携帯電話1400台について分析した結果、以下の内容が得られたという。

・約42%の携帯電話には、暴力的あるいは陰惨なファイルがあった。
・12%の携帯電話には、ありふれたイスラームの宗教的コンテンツがあった。
・6%の携帯電話には、明確に政治的な内容のファイルがあった。例えば、「東トルキスタン」(筆者注:中国政府が「新疆」と呼ぶ地域を指すために一部のテュルク系ムスリムが使用している名称)を讃える歌や、シリア戦争や香港の民主化デモに関する動画など。
・4%の携帯電話には、「ジハード」など暴力を呼びかけるファイルがあった。
(ヒューマン・ライツ・ウォッチHPより引用)

 これら調査結果を受け、ヒューマン・ライツ・ウォッチの中国局長代理:王松蓮氏は「中国政府は新疆ウイグル自治区で監視技術を乱用している。ウイグル族は携帯電話にコーランのデータを保存しているだけで、警察に取り調べられかねない」と述べている。

 中国は、ウイグル族に対し、監視カメラだけではなく、監視アプリを使い、その思想・信条に介入している。

 そして、体制に脅威となる人物に対し、テロなどの定義が広く曖昧な中国テロ対策法を用い、恣意(しい)的な運用を行い、訴追、身体の拘束、収容などの措置を実施するのだろう。

 同報告を裏付ける他の情報はまだ得られていないが、仮に真実だとすれば、中国の人権侵害はこれまで知られている以上におぞましく、かつ、システチックな手段で行われていることになる。今回の監視アプリを含む中国当局の監視システムに関与しているテック企業の解明が待たれるし、日本企業としても人権デューデリジェンスの観点から無視できない情報であろう。

 また、監視システムでいえばTiktokやWeChatによる利用者に関する情報収集・情報操作も懸念される。

 いまだにTikTokなどの危険性について、GAFAと何が違うのかなどという意見を聞くが、そもそも中国には国家情報法があり、アプリ運営会社の善悪とは関係なく、当局に情報提供をしなければならない場合がある。また、Tiktokなどに関する過去の事件を見ても、その危険性は明白であろう。

 そして、国家安全保障上も、日中関係はこれまでとは違うことを念頭に置かなければならない。