医療機関ひっ迫で生まれた「みなし入院」措置が
生保各社の業績悪化を招いた

 COVID-19は、その感染力の強さと、死亡リスクの大きさから、2020年1月に「指定感染症」に分類され、陽性者への入院の勧告・措置、就労制限、建物への立ち入り制限など、「2類感染症」以上の厳しい措置を行われることになった(その後、2021年2月に、「新型インフルエンザ等感染症」に変更された)。

 当初は、感染の拡大を防止するために、陽性者の全てを医療機関に入院させる措置が取られていた。ところが、感染の拡大とともにコロナ病床は満床となり、医療機関だけでは、全てのコロナ陽性者を受け入れられない事態が発生した。そのため、陽性者のなかで、無症状や軽症の人など、重症化リスクの低い人は、自宅や都道府県が用意した宿泊施設で療養するようになった。

 2020年4月、コロナ病床のひっ迫を受け、金融庁は生損保各社に対して、「柔軟な保険約款の解釈・適用、商品上の必要な措置」を要請。これを受け、保険各社は、自宅や宿泊施設で療養していたCOVID-19の陽性者についても、医療機関に入院しているものとみなして、特例的に入院給付金を支払うことになったのだ。これが、いわゆるコロナ禍での「みなし入院」と呼ばれるものだ。

 だが、その後も、COVID-19は収束の気配を見せず、2022年7月~9月の第7波は新規陽性者数の累計が約148万人を記録している。これに比例して、自宅や宿泊施設での療養者も増加し、入院給付金の支払件数や支払額も急増した。当初の予定を大幅に上回る入院給付金の支払いによって、ほとんどの生保会社の収益は悪化することになった。

 同時に、第7波での爆発的な感染拡大により、国が義務付けている陽性者の届け出業務が、医療機関や保健所の業務を圧迫するようになっていった。

 当初、COVID-19は、全ての医師に対して、全ての患者の詳細な情報を届け出る「全数把握」が義務付けられていた。だが、第7波のピーク時は、1日の陽性者が約25万人を超える日もあり、届け出業務だけでも医療機関や保健所の負担を増大させていた。

 そこで、医療機関や保健所の負担を軽減するために、2022年9月26日以降は、全数把握の対象を「65歳以上の人」「入院を要する人」「重症化リスクがあり、新型コロナ治療薬の投与または新型コロナ罹患により酸素投与が必要な人」「妊婦」に限定することになったのだ。

 こうした国のコロナ陽性者の全数把握の見直しのタイミングに合わせて、民間生保会社も、みなし入院に対する入院給付金の支払い範囲を縮小することを決定。2022年9月26日以降は、自宅や宿泊施設で療養しているコロナ陽性者で入院給付金が給付されるのは、全数把握の対象と同様の4ケースだけになっていた。