海運バブル終焉 手探りの船出#6Photo:picture alliance/gettyimages

構造改革の遅れによって迷走してきた川崎汽船は、海運バブルで息を吹き返した。バブルが終焉し、次の一手として上位2社が非海運事業の強化などに動く一方、川崎汽船は海運業の「一本足打法」を掲げる。川崎汽船の逆張り戦略に勝算はあるのか。特集『海運バブル終焉 手探りの船出』(全7回)の#6では、川崎汽船が今後注力する海運3事業に潜むリスクを解き明かす。(ダイヤモンド編集部 梅野 悠)

コンテナバブルで「負の遺産」を一掃
次の一手も「海運一本足打法」を継続

「市況の後押しもあり、順調なスタートを切ることができた」。川崎汽船が5月8日に開いた2023年3月期の決算説明会で、明珍幸一社長は経営計画の進捗についてそう語った。

 海運業界で沸いたコンテナバブルは、上位2社の日本郵船、商船三井と同様に川崎汽船にも大きな恩恵をもたらした。同社の23年3月期の最終利益は2期連続で過去最高となった。

 コンテナバブルは新型コロナウイルス感染拡大に伴う物流混乱が背景にある(本特集#1『海運大手3社の合弁「日の丸コンテナ船」、バブル終焉で忍び寄るリスクの正体』参照)。『日の丸コンテナ会社ONEはなぜ成功したのか?』(日経BP)の共著がある拓殖大学商学部の松田琢磨教授は「コンテナ運賃の高騰前までは問題児だったコンテナ事業が神風の下に稼ぎ頭になった」と話す。

 特に川崎汽船にとって、その神風の効果は絶大だった。

 そもそも、バブル前、川崎汽船は不振にあえいできた。主因は、同社が08年の金融危機前に高値で契約した用船料の支払いである。さらに主にドライバルク船市況の悪化やコンテナ、自動車の荷動きの急減を受け、運賃収入が契約料を下回る「逆ざや」が生じたのだ。

 財務基盤が弱い川崎汽船にとっては上位2社とは異なり巨額の特別損失を計上して「うみを出し切る」ことも容易ではなかった。08年以降は大幅な赤字を繰り返し、2度の増資で何とか食いつなぐような綱渡りの経営が続いてきた。

 コンテナバブル直前の19年3月期は1111億円の最終赤字を計上、自己資本比率は10.9%にまで落ち込んだ。まさに瀕死の状態だったのだ。

 だが、コンテナバブルで財務は見違えた。23年3月期の純資産は1兆5466億円、自己資本比率は73.8%となり財務はV字回復した。

 これは、ひとえにコンテナ事業のおかげである。川崎汽船の23年3月期の経常利益6908億円のうち、実に9割もがコンテナ船事業を手掛けるOcean Network Express(ONE)からの持ち分法利益の貢献である。長らく構造改革に追われてきた川崎汽船は、コンテナバブルで息を吹き返したのだ。

 特需に沸いた海運業界。大手各社には、ポストバブルの新たな針路を模索する動きが出ている。2強の日本郵船と商船三井は、業績が市況に左右されてきた過去の苦い経験を糧に、安定収益を目指して非海運事業の強化などの構造改革を進める(本特集#2『日本郵船は物流、商船三井は不動産…最高益に沸く2強が「脱・海運」にシフトする理由』参照)。

 では、「負の遺産」の整理を一挙に完遂した川崎汽船の次の一手とは。実は、同社が掲げるのは2強とはまた異なる「海運一本足打法」である。次ページでは、川崎汽船の「逆張り」戦略の詳細とともに、それらが抱えるリスクについて明らかにする。