海運バブル終焉 手探りの船出#番外編Photo by Masato Kato

海運業界が沸き立った空前のコンテナバブルは、青息吐息だった業界3位の川崎汽船を復活させた。ポストバブルの成長戦略で海運2強の日本郵船と商船三井が非海運事業の強化を掲げる一方、川崎汽船は海運集中の”逆張り戦略”を打ち出す。特集『海運バブル終焉 手探りの船出』の番外編では、川崎汽船の明珍幸一社長を直撃し、海運一本足打法の勝算を尋ねた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 梅野 悠)

市況の冷え込みは想定内
中計目標は前倒しで達成も

――新型コロナウイルス感染拡大を背景とするコンテナ運賃の高騰によって2期連続で最高益となりました。足元でコンテナ運賃が下落する中、今期以降の見通しは。

 2024年3月期の経常利益は1300億円となる見通しです。コンテナ特需が2年続き、今年いったん市況が冷えました。これはある意味想定していた状況です。

 昨年5月に新たな中期経営計画を発表しました。1年目は、コンテナ船事業がコロナの特殊要因もあって市況水準が高いところで推移し、目標を大きく上回ることができました。

 26年度に経常利益1400億円という目標に対して、23年度はすでに1300億円と見込んでいます。特に、切り出したコンテナ船事業を除く独自の「自営事業」は21年度に340億円でしたが、22年度の実績は833億円まで伸びています。もちろん為替の影響もありました。しかし、今回は1ドル=125円と保守的に見積もり、それでも23年度は800億円の利益計画です。

 中計に沿って取り組んできたことや、構造改革、過去の負のレガシーの精算、また将来に向かって事業の競争力を付けてきた結果が少しずつ出始めているのではないかと思っています。

 中計の最終年度である26年度に1400億円という目標については、前倒しで達成し、なおかつさらに拡充していこうと考えています。もっと高い目標を掲げようと議論しています。

――具体的に注力する事業とその戦略についてお聞かせください。

 昨年に中計を発表しましたが、そのさらに1年前の夏から役員や若手も含めてプロジェクトチームをつくり、5年後や10年後にどう生き残っていくのか徹底的に議論しました。

 結果、われわれが出した絵は、海運を主軸に事業を伸ばしていこうというものです。限られた経営資源を分散させるのではなく、集中することでより当社の強みを生かしていく。競争優位性を保つ形で、企業価値を向上させていこうと。

 そして、昨年に中計で掲げた利益目標が、26年度までに切り出したコンテナ船事業と、独自で運営する「自営事業」の二つでバランスよく700億円ずつを稼ぎ、計1400億円の経常利益を目指すというものです。

 特にわれわれの成長をけん引する役割を担う事業として、自動車船、LNG(液化天然ガス)船、鉄鋼原料輸送船を挙げています。

 この3事業は成長への時間軸とボラティリティー(変動)がそれぞれ異なるのですが、市況のボラティリティーそのものは避けられません。特に海外事業はボラティリティーが大きく、それをどう低減していくかを考えています。

 事業によっては、中長期で契約できるものから短期のものまで幅広くあります。また、成長への時間軸もいったん投資したなら10年20年という契約の中で回収していくもの、それに対して市況にも対処しながら、本船の運航やお客さまとの契約をして、よりよい収益を上げていくものと3事業がバランスを取れています。

 この3事業をバランスよく持っていることでボラティリティーを低減できると思っています。

――海運2強の日本郵船、商船三井は、業績のボラティリティー対策として非海運事業の強化を進めています。

次ページでは明珍氏が、非海運に力を入れる競合2社と真逆の戦略を取る理由を解説する。中核の自動車船事業では、市況リスクに加えて、電気自動車(EV)の普及によって車の地産地消が進み、日本の完成車メーカーに支えられてきた需要が失われる懸念もある。明珍氏はそうしたリスクへの対応策を打ち明ける。株主還元に対する考え方についても明らかにする。