海運バブル終焉 手探りの船出#4Photo by Masato Kato

海運業界が沸いた空前のコンテナバブルは終焉を迎えた。2期連続で純利益1兆円を達成した業界最大手の日本郵船は、ポストバブルの新たな航路をどう描くのか。特集『海運バブル終焉 手探りの船出』(全7回)の#4では、4月に新社長に就任した曽我貴也氏を直撃。新リーダーに1兆円の投資の“使い道”に加え、10年先の業界の勢力図について聞いた。(ダイヤモンド編集部 梅野 悠)

急落したコンテナ運賃「来年には回復」
脱炭素対応など8000億円超を船に投資

――新型コロナウイルスの感染拡大を背景とするコンテナ運賃の高騰により2期連続で最高益となります。足元の市況をどのようにみていますか。

 コロナ禍による物流混乱はほとんど収まり、荷量そのものも減っているためコンテナ運賃が急落しています。

 背景として、コロナ禍での物流混乱を経験されたお客さまが、相当な在庫を先に送っておくという動きが、特に去年の前半から夏ぐらいまで続きました。この在庫の調整は、米国を中心に今年の秋ぐらいまでかかるという見方が多いです。

 ただ、中国では鉄鉱石やボーキサイトといった原材料の輸入が復活してきました。こうした素材系が増えてくるということは、次は中国での生産量が増え、輸出に回ってきます。これはあと3カ月くらいでドライブがかかってくるでしょう。

 中国の輸出回復と、前述した米国の在庫調整が済めば、今までと同じようなサイクルが復活し、今年の下旬ぐらいからコンテナ船の荷動きが順調になってくると思います。

 来年の初頭から長期契約の交渉があるので、そこでは(運賃が)ノーマルな状態になるとみています。

――3月に発表した4年間の新中期経営計画では、2026年度までに総額1.2兆円規模の投資を計画しています。

 日本郵船は前期までにコンテナ船事業を手掛けるOcean Network Express(ONE)の強化や、高コスト船体の処分、航空貨物子会社の日本貨物航空の譲渡決定など経営課題を整理できました。財務面でも非常に強固になり、極めてフェアなスタート地点に置かれていると感じます。

 今後の投資については、全体としては社会の脱炭素化に貢献する液化天然ガス(LNG)輸送船の船隊規模拡大などの中核事業の進化に5600億円を投じ、残りを新規事業などに充てます。

 一方、残りのうち2900億円についても、燃料転換による低炭素化・脱炭素化が図れる新造船に投じます。例えば自動車船や鉄鉱石などを運搬するドライバルク船に関して、LNGを燃料にできるように切り替えていきます。つまり1.2兆円のうち、8000億円以上は船への投資なのです。

 利益計画については、昨年やおととしのような「1兆円」はありませんが、経常利益はコロナ禍前の水準よりも高い2000億~3000億円という水準で極めて堅調に成長ができるとみています。

――中計の投資計画では、成長戦略の一つとして物流事業の強化を掲げていました。狙いはなんですか。

 中計では、重点事業にコンテナ船と物流を挙げました。日本郵船は郵船ロジスティクスという大きな物流子会社を持ちます。物流は需要がまだまだ伸びている分野であることに加え、コンテナ船とは異なり、収益のブレが小さいのが特徴です。

 物流事業を拡大して、これまで大きかった収益のブレを小さくしたいと考えています。そのため、中計では主に物流分野でM&Aをするための投資額として1400億円を掲げました。

――具体的にどのような案件に投資をしていくのでしょうか。

次ページでは、曽我氏が物流事業のM&Aに当たり最重視する二つのポイントを挙げる。また海運バブルの終焉で業界の先行きはどうなるのか。業界最大手のリーダーが10年後の業界について展望する。