三点目は、プロパガンダ工作・スパイ活動の危険性である。
それは具体的にどのようなものなのか、以下解説したい。
孔子学院を使った
中国政府のプロパガンダ工作とは
孔子学院によるプロパガンダ工作は「シャープパワー」と位置付けられている。
シャープパワーとは、軍事力などの「ハードパワー」と、文化・教育・価値観といった「ソフトパワー」との中間に位置付けられている。
一般的に、ソフトパワーによって相手国の世論に対し、自国に対する親近感や好感を醸成し、対象国の世論を味方につけて自国の利益に資するようにする手法をパブリック・ディプロマシーという。
孔子学院はその手法の代表例であったが、中国のような権威主義国家ならではの強引・横暴な要素が大きいことから、シャープパワーとして批判されている。
その手法はこうだ。
まず、孔子学院において、友好的な文化・教育交流として、中国の文化や言語に多く触れてもらう。そして、学生に中国の文化に親しみを持たせた上で、中国への留学や招待を実施し、親中派として育て上げる。注意すべきは、このプロセスにおいてウイグル人権問題や香港弾圧について触れず、台湾問題や尖閣問題などについては中国の主張をソフトに教育・浸透させていくのだ。
中国に長く留学した私の知人(日本人)と会話した際、彼にウイグル人権問題の話題を投げかけてもけげんそうな顔を浮かべ、「留学して思ったが、そもそも証拠がないだろう。中国の現地では誰も問題にしていない」などとけむに巻こうとする。
尖閣問題についても、「中国の主張も聞かなければならない。日本の主張ばかり聞いても仕方ない」と中国目線で答えるのだ。さらに、「中国に来ればわかる」とまで言われてしまった(私が中国に行ったら、おそらく反スパイ法で拘束されるだろう)。
また、孔子学院の社会人学生として、例えばメディア関係の人間を中国旅行などに誘い、現地の“良い部分”の情報に多く触れ、親中派として育て上げる。同様の手法は企業幹部や政治家にも及ぶだろう。
要は、孔子学院を経て中国に“都合の良い情報”のみを与え、可能であれば感化させ、親中派を孔子学院の設置国で拡大させていくプロパガンダ工作である。そして、こうした取り組みが、日本の有力な大学において、日本政府(文部科学省)が関知することなく行われているのだ。
ちなみに、中国による工作はこれだけではない。
例えば、日本国際問題研究所の桒原響子氏によれば、台湾有事における一つの想定として、中国は、日本と米国の分断を目指し、「台湾有事における在日米軍や自衛隊の活動により、日本は戦争に巻き込まれる」と訴えることで、日本の軍事アレルギーを刺激し、批判的なデモや抗議活動を活発化させようとしていると述べている。
台湾有事に限らず、これに似た状況は、既に日本国内でも散見されているが、その背景に中国の思惑が働いていることは明白であろう。