孔子学院による
スパイ活動とは
まず、孔子学院が設置されている大学が保有する研究情報などの知的財産に加え、中国人留学生のコミュニティー情報、有力人物の人脈等について極めて近くで触れられる環境にある。
また、中国の「千粒の砂戦略」のように、中国はビジネスマンや留学生などのさまざまなチャネルを利用して技術情報の窃取を試みる。事実、中国人留学生による諜報事件は近年、日本国内でも幾度か検挙されている。
特に悪質なのは、中国政府機関系の人間が善意の留学生に接触し、スパイ活動に加担させる点だ。
2008年夏、北京五輪の聖火リレーが開かれた際、中国大使館などの指示を受け、中国人留学生学友会を主とした中国人留学生が全国から動員されたが(当時の報道によると、3000~5000人が集まったとされる)、善意の留学生であれ、中国政府の意向には従順である。したがって、中国政府が孔子学院を通じ、情報収集や工作活動を指示すること、または同活動にリクルートすることは当然想定される。
さらに、3月初旬に、日本に留学していた女子留学生が香港に一時帰国した際、SNSで香港独立に関する情報を流したとして国家安全維持法違反の容疑で逮捕された件や、中国非公式警察による在日中国人コミュニティに入り込んだ監視活動を鑑みても、孔子学院がプロパガンダ工作を行うだけではなく、これら反体制動向の監視活動に関与、情報提供などの支援を行っていると推察することもできる。
孔子学院に対して
政府は対応策を示すべき
今回、参政党の神谷宗幣参院議員の質問主意書に答えた形で、報道において孔子学院がクローズアップされた。
2021年には、参議院文教科学委員会質問において、自由民主党の有村治子参議院議員が孔子学院について取り上げ、萩生田光一文部科学相(当時)が初めて孔子学院への対応を明言した。また、過去には自由民主党の杉田水脈衆院議員が予算委員会(第四分科会)において、孔子学院について取り上げている。
これまで、孔子学院について、各国が閉鎖などの措置を進める中で、日本においてはその対応が明確になされることはなく、前述の議員たちの行動によってクローズアップされては世間からの関心が薄れ…ということを繰り返している。この状況は、現在の厳しい国際情勢の中で日本の立場として懸念すべきではないだろうか。
日本として明確な対応策を示す必要がある。
そして、社会もこの問題について関心を高めるべきだろう。
最後に断っておくが、中国の文化に触れ、中国の言語を学び、互いの理解を深めるのは素晴らしいことであり、筆者にも素晴らしい中国人の友人がいる。
一方で、本稿において、それとは区別して孔子学院への懸念に対し、社会において改めて認識され、日本の対策がわずかでも進むことを期待したい。
(日本カウンターインテリジェンス協会代表理事 稲村 悠)