――最近、新たに取り組んでいることはありますか?
川嶋 インドに進出したことです。きっかけは15年に、高崎市の支援の下、市内の企業15社と、インド・ニューデリーで開催されたインド最大級の機械技術関連の見本市に共同出展したこと。正直なところ、それほど期待していなかったのですが、出展すると現地ゴムメーカーの担当者が列を成す状況に戸惑うほどでした。さらには日本企業の現地法人の方も複数訪れ、「インドに進出している日本の中小企業はほぼいないが、ニーズは高い。今が進出するチャンス」と言われました。
そこで思い切って進出を決意したのです。インド企業との合弁ではなく、日本企業とタッグを組んで進出することにしました。
――スムーズに進出できましたか?
川嶋 簡単にはいきませんでした。借りる予定だった工場敷地が途中でことごとく借りられなくなり、結果的に賃料の高い場所を選ばざるを得なくなりました。19年に工場が完成してからも、受注先から「製品が基準に適合していない」と量産寸前に指摘を受け、取引ができない事態に。他の取引先を開拓し、ようやく先に進める……と思った矢先に、今度は新型コロナウイルスの感染拡大です。インド全土がロックダウンになり、20年はほぼ仕事になりませんでした。
――踏んだり蹴ったりでしたね……。
川嶋 ただ、21年頃からインドの経済活動が正常化し、工場も稼働できるようになりました。幸いJETRO(日本貿易振興機構)の紹介により日本語が堪能で有能なインド人コンサルタントと組んだことで、インド人のワーカーを着実に集められました。技術も問題なく教えることができ、今では現地に日本人が1人もいなくても回るようになっています。インド人ワーカーの人件費は日本の10分の1ですから、これは大きい。22年度のインド事業は単年度で黒字になりました。
――一気に状況が好転したのですね。
●川島工業株式会社 事業内容/工業用ゴム部品製造および組み立て加工、従業員数/47人、売上高/6億円(2022年度)、所在地/群馬県高崎市上豊岡町571‐6、電話/027‐343‐3682、URL/kawashima-kougyo.co.jp
川嶋 インドは日本の高度成長期のような状態で、仕事はあふれています。コスト競争は激しいですが、仕事のボリュームが大きいのでチャンスは多いですね。初めての海外進出がインドで周囲からは「いい度胸しているね」と言われましたが(笑)、他を知らないので、比べようもなかった。苦労したことで、海外生産のノウハウが短期間で蓄積できました。
――今後はさらにインドに注力されるのでしょうか?
川嶋 まずはインドの事業を伸ばしていきますが、将来的には、最後のフロンティアといわれるアフリカに進出したいと考えています。インドに生産拠点を構えたことで、そこから輸出する形で、アフリカ市場にも十分挑戦できるようになりました。インドからは中東市場にもアクセスできるでしょう。
何年後になるかわからず、次の世代の仕事になるとは思いますが、そのための足固めが私の役目と考えています。
(取材・文/杉山直隆、「しんきん経営情報」2023年6月号掲載、協力/高崎信用金庫)