手術センスが壊滅的なのに難手術に挑み、患者は高確率で死亡もしくは後遺症に苦しむ。そんな“あり得ない脳神経外科医”の物語『脳外科医 竹田くん』という漫画が話題だ。『週刊ダイヤモンド』6月3日号の第1特集は「今なら目指せる! 医学部&医者」。5月29日店頭発売に先駆けて、医療界のホットトピックに注目。外科医の女房役として数々の手術に立ち会ってきた麻酔科医が、実際に出会った“竹田くん”のエピソードを披露し、竹田くん系医師から患者が逃げる方法を指南する。(フリーランス麻酔科医 筒井冨美)
ネット漫画『脳外科医 竹田くん』
実在の連続医療事故事案と酷似
『脳外科医 竹田くん』というインターネット上の漫画が、医療関係者のSNSで話題になっている。
架空の「赤池市民病院」を舞台に、竹田くんは手術センスが壊滅的であるのにもかかわらず、身の程知らずの難手術に挑み、患者は高確率で死亡もしくは後遺症に苦しむ。「あり得ない脳神経外科医」副題そのままのホラーなストーリーである。
さらにホラーなことにこの漫画は、兵庫県赤穂市の赤穂市民病院で2019~20年に多発した医療事故と酷似しており、手術エピソードや後遺症の表現も同病院関係者が制作協力しているとしか思えないほどリアルである。この事件は20年頃から地元メディアで報道されてはいるものの全国的には注目されておらず、真相究明には至っていない。
「『無能な働き者』は『無能な怠け者』よりもタチが悪い」とは、ドイツ軍人ゼークトによる組織論の言葉である。
人気医療漫画『ブラックジャックによろしく』には「『30年間手術ミスがない名医』とされているが、自分で担当するのは皮膚切開のみで、後は部下に手術をやらせる永禄大学外科教授」が登場し、これは「同じく元号を名前にした大学の外科教授がモデル」と言われているが、確かに「無能な怠け者」系外科医では患者の被害は少ない(部下は大変そうだが)。
「無能な働き者」系事件と言えば、14年に群馬大学医学部附属病院で、同一外科医に腹腔鏡での肝臓手術を受けた患者8人が死亡した事件が最も有名だ。
残念ながら表面化していない竹田くん系外科医は、それなりに実在している。もちろん通常は、竹田くんのような医師に患者の命にかかわるような仕事をさせないための防衛網が病院内には構築されており、ほとんどの場合は患者に害が及ぶ事態にはならない。
しかし『脳外科医 竹田くん』に登場するような定年まで何事もなく過ごすことしか頭にない院長、竹田くんを甘やかす上司、怠慢な医療安全担当など、その防衛網が機能しない諸条件が全てそろったがためにホラーが現実になる時がある。
私はフリーランス麻酔科医という仕事柄、あまたの外科医の仕事ぶりを見聞きしており、病院に潜む“竹田くん”事例や、見分け方、回避方法を伝授したい(次ページからのエピソードは、個別のケースを特定されないよう脚色を交えています)。