トレンドが激しく移り変わるいま、時代に左右されない「モノが売れる原理」が必要とされている。そんなマーケティングの「そもそも論」を徹底的に掘り下げたのが、博報堂やボストン コンサルティング グループで活躍してきた津田久資氏による最新刊『新マーケティング原論』だ。
「マーケティングを科学する第一歩」(冨山和彦氏)、「これこそ『クリティカルに考える』ということ」(デービッド・アトキンソン氏)など各氏の称賛を集める同書では、4Pや3C、ブルーオーシャン戦略や破壊的イノベーション戦略など、おなじみのツールや理論が「そもそもなぜ有効なのか?」という部分も含めて、きわめてわかりやすく解説されている。まさに「考えるマーケター」のための教科書だ。
本稿では、同書より一部を抜粋・編集し、「ポーターが戦略の領域で成し遂げたことの意味」をご紹介する。
マイケル・ポーターが「戦略」の領域でやっていたこと
前回の記事では、フレームワークは、正解を出すための公式ではないというお話をしました。フレームワークとは、あくまでも「自分なりの答え」をつくるための補助ツールです。決して万能ではありませんし、使いどころを間違えれば、見当違いの戦略を生み出すことすらあります。
参考記事:「知識がある人」ほどハマる、マーケティングの落とし穴
だからこそ、フレームワークを使うときには「なぜそうだと言えるのか?」を知っておく必要がある──それが前回の結論でした。
逆に言えば、「なぜそうだと言えるのか?」を徹底的に問い直す本書のような手続きを踏まえることで初めて、みなさんはマーケティングのフレームワークを手に入れられるとも言えるでしょう。そして、それがフレームワークである以上、やはり一定の体系性と普遍性をもったものになるはずです。
(『〔エッセンシャル版〕マイケル・ポーターの競争戦略』早川書房、21ページ)
これは、ハーバード・ビジネス・スクール教授のマイケル・ポーターの言葉です。ポーターは現代における競争戦略論の大家であり、さまざまなフレームワークを考案したことで知られています。
この言葉からも読み取れるように、ポーター教授は明らかに自身のフレームワークに体系性や普遍性を認めています(上記の場合の「不変」は「普遍」とほぼ同じ意味だと言えるでしょう)。そして、彼がこのように断言できるのは、彼自身がこのフレームワークの創設者であり、「なぜそうだと言えるのか?」という原理原則がくっきりと見えているからでしょう。
本書が目指しているのは、ポーターが戦略の文脈で到達したような普遍的な体系性を、マーケティングの領域で実現することです。マーケティングの原理をゼロから洗い出してみることで、ビジネスの基礎に横たわっている「物理法則」を明らかにしてみたいと思っています。
もとより、筆者がポーター教授と肩を並べうるなどと僭称するつもりはありません。しかしながら、マーケティングの世界ではこうして「なぜ?」を追究する「原論」の試みが十分になされてこなかった以上、たとえ100%の完成度ではなくても十分にやる価値のあるチャレンジだと思っています。
かつて白州次郎は「日本にはプリンシプルがない」と語りました。それはいまも変わっていないと思います。日本人には「なぜ?」がないからです。
小西美術工藝社の社長で、菅義偉元総理のブレーンとしても知られているデービッド・アトキンソンさんも「日本人にはクリティカル・シンキングが欠けている」と各所で語っていらっしゃいますが、これは物事に対して「なぜ?」という疑問を持って向き合う態度のことでしょう。