ウェルビーイングは競争優位につながるか
PwCコンサルティングでは、前述の幸福学先行研究や、幸福学の権威である前野隆司氏(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授兼慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長)の協力を得ながら、幸福度のビジネスへの活用という観点で深掘りした調査を通じて、幸福度がビジネスに使える指標であることを見いだすに至った。具体的には、幸福度が高い人は「消費に積極的」「新しいもの好きが多い」「社会課題解決へ関心を持つことや行動する傾向が高い」「熱狂度が高い」という4つの特徴を持つということだ(詳細は図表3参照)。
また、従業員向けウェルビーイングの有用性についても我々は独自調査を行っているが、そこから得られた示唆については、連載の別の回にご紹介する。
以上見てきたように、消費者向け、従業員向けの両面でウェルビーイングは重要なイシューになりつつある。消費者向けの観点では、お金を使うことに積極的かつ新しいもの好きの傾向や熱狂度が高い、幸福度の高い顧客層を自社の顧客基盤とすることは、商品・サービスの早期購入と改善につながり、結果的に自社の商品・サービス開発力を高め、自社の競争優位性にもつながり得る。
従業員向けの観点では、創造性や生産性の向上により企業としてのさらなる付加価値創出の実現や、人材争奪戦が激化する中での採用競争力の強化や退職率低減といった効果等が見込める。特に、そもそもウェルビーイングと親和性の高い食品や化粧品、ヘルスケアなどの業界では、ウェルビーイングに向き合わないことは“競争劣位”になるリスクがあるともいえ、経営イシューとして腰を据えて取り組む必要があるだろう。
次回は、これまで述べてきた競争優位につながるウェルビーイングをいかにして企業経営に取り込むかについて論じたい。
PwCコンサルティング合同会社 Strategy& ディレクター。消費財をはじめとする幅広い業界に対するビジョン策定、全社/事業戦略、顧客戦略/マーケティング/ブランディング、新規事業開発、組織変革等の戦略コンサルティングを手掛ける。また、ウェルビーイングを起点とした経営をテーマにして、アカデミア等との連携を踏まえて、書籍、寄稿、登壇、動画出演等による多数の情報発信や調査、関連プロジェクトを行う。ベネッセコーポレーションにてマーケティング・編集業務、ボストン コンサルティング グループ(BCG)、アクセンチュアにてコンサルティング業務を経験し、現職。京都大学理学部卒、香港科技大学経営学修士(MBA)。
PwCコンサルティング合同会社 マネジャー。データアナリティクスを起点としたマーケティング領域の支援経験が豊富であり、マーケティング戦略立案、消費者インサイト分析、効果検証領域を得意とする。PwCコンサルティング内に2022年に創設された幸福度イニシアチブのコアメンバーの1人として、幸福度を切り口としたマーケティングに関するオファリング開発・支援に従事。PwC Japanグループウェブサイト「幸福度マーケティングインサイト」にて「熱狂×幸福」をテーマとした情報発信も積極的に行っている。総合広告会社アサツーディ・ケイ(現ADKマーケティング・ソリューションズ)にて営業、コミュニケーションチャネルプランナー、データアナリストとして様々な広告主のマーケティング活動の支援を経て、現職。早稲田大学商学部卒。早稲田大学大学院商学研究科商学修士。