知財とデザインの一体型組織が「課題を掘り起こす力」を資産に変えるABCG / PIXTA

プロセス制御分野の世界市場で、高いシェアを維持し続ける横河電機。「制御と計測」における技術力を強みとしてきた同社が今、デザインの力を「広義の知的財産」として活用する取り組みを進めている。知的財産とデザインを一体化したユニークな組織「知的財産・デザインセンター」でセンター長を務める田中伸生氏と、その傘下にあるエクスペリエンスデザイン部の部長・髙野直人氏に、その狙いと現状を聞いた。(聞き手/音なぎ省一郎、坂田征彦、構成/フリーライター 小林直美)

知財とデザインが「新結合」した組織が発足

──今年(2023年)4月に発足した「知的財産・デザインセンター」とは、どのような組織ですか。

田中 知財機能とデザイン機能を一体化させた組織です。「YOKOGAWAブランド」のあらゆる製品やサービスに横断的に関わり、各事業部門と連携して価値共創に取り組みます。

髙野 横河電機は「測る力とつなぐ力で、地球の未来に責任を果たす。」というパーパスを掲げています。単独では実現できない目的をシステム全体として実現する「System of Systems(SoS)」の流れがあらゆる分野で進んでいますが、そうした中で世界をリードするインテグレーターになると宣言しています。目の前の課題解決にフォーカスしてきたデザイン部と、未来を見据えて技術資産を形成してきた知財部の「新結合」によって、「YOKOGAWA」の潜在力を解放する──。それが本センターのミッションです。

──マーケティング本部に属しているのもユニークですね。

田中 弊社のマーケティング本部には、調査、コミュニケーション、ブランディングといった「狭義のマーケティング機能」だけでなく、われわれのような知財やデザイン、さらにはR&D、新規事業開発、M&A、渉外などの機能が集結しています。これは2016年から始まった変革で、マーケティング本部そのものを、全社の再成長を促すチェンジエージェント的な位置付けにするものです。

髙野 今まで、知財部とエクスペリエンスデザイン部はマーケティング本部の中でも、新規事業開発を手掛ける事業開発センター内に位置付けられていたのですが、このたび独立してセンター化したという流れです。

知財とデザインの一体型組織が「課題を掘り起こす力」を資産に変えるNobuo Tanaka
横河電機 マーケティング本部 知的財産・デザインセンター センター長
1999年、京都大学大学院 修了。電機メーカー2社にて、ポートフォリオ管理から訴訟まで知財業務全般を担当したのち、2019年に横河電機に入社。同年より、知的財産部・部長としてYOKOGAWAグループ知財業務全般のマネジメントに従事。2023年から現職。デザインと知財を組み合わせることで新たな価値の提供を行うことに挑戦中。弁理士、米国 Patent Agent(合格)、IAM Strategy 300に選出(2017-2021)
Photo by ASAMI MAKURA

──知財とデザインを融合させた経緯と狙いをお聞かせください。

田中 前提として、どちらも時代とともに役割が広がってきたという背景があります。知財というと、かつては「技術やノウハウを独占するためのツール」が主眼でしたが、今はそれだけではなく、「ビジネス拡大のための重要なツール」という側面が強まっています。一方デザインも、製品やサービスの優れた仕様を設計するだけでなく、ライフサイクル全体で顧客の体験価値をいかに高めるかが重要になっています。この両者を融合すれば、デザインの視点で掘り起こした潜在需要に、技術やライセンスを組み合わせて独自のソリューションを生み出せる──。この一連のプロセスそのものを「広義の知財」として活用できれば、グループとしてのビジネスモデルをより強固にできると考えています。