お互い言いたいことを言って意気投合し
そのまま飲みに行くケースも
鈴木 2016年8月8日、天皇陛下(現・上皇さま)が「お気持ち」を公表されました。憲法上、天皇は国政に関する権能を有しないことから、「生前退位」という直接的な表現こそありませんでしたが、強いご意向をにじませたものでした。これを受けた世論調査では、「生前退位」を肯定する意見が大多数でした。そこで急遽、8月26日の放送で、「象徴天皇」と「生前退位」について議論することにしたんです。番組内では、陛下の「お気持ち」のメッセージを、一人の人間の言葉として、すべて紹介いたしました。
この放送は、視聴者と共に「平成」という時代を振り返り、「象徴天皇制」の意味を考える貴重な場になりました。天皇や天皇制を語ることをタブーとしない、田原さんたち先人たちが切り開いてきた言論空間のおかげで、こうした議論を自由闊達に行うことができているわけです。「昭和」の終わりに立ち会った私は、当時と比べて隔世の感を感じ、感無量でした。
その後、天皇の生前退位に関する事項は国会で特措法として立法化され、「象徴天皇制」にふさわしい形になったと思います。衆議院議長(当時)の大島理森さんがご尽力されたと聞いています。生涯、平和への祈りの旅を続けられてきた上皇さまは、生前退位なされる前のお誕生日の会見で、ご自分の時代には戦争はなかった、と涙ぐまれていたのが印象的でした。
田原さんは「タブーに挑戦」とおっしゃいますが、実は私はまったくそういう気はないんです。結果的にこうした皇室問題など、タブーとされている部分が論点になってしまうことはありますが、そこはちょっと田原さんとはアプローチが違うんです。
ご質問の「意識している点」に関して、出演者の皆さんにお願いしているのは「自由に意見を言っていただきたい」という点です。ただし、事実を間違えないこと、そして、人権へ配慮すること、この2つは必ず事前にお伝えします。
田原さんが先ほど免許事業のお話をされましたが、私は、国民の電波を預かっているわけですから、できるだけ多くのかたに見てもらえるような良い番組をつくりたい、という思いが基本にあります。一方で、朝生は報道番組ですので、選挙が近くになると、各候補者や投票者が公平になるようにしないといけません。そういうルールはあります。
――やはりテーマに対して、賛成派と反対派をバランス良く配置するようにしているのですか?
鈴木 バランスではないんです。放送法には、事実を曲げない、といったこともあるのですが、多角的な論点を提示する、ということも掲げられています。つまり、見ている人に「この問題にはいろいろな見方があるんだよ」と提示しましょうよ、と。朝生は結果的に、それが体現されていると思います。世代も性別もさまざまな論客が一堂に会して議論する番組は、ほかにはなかなかありませんから。ちょっと、国民会議的ですね。
田原さんがおもしろいのは、ひとつのテーマに対し、賛成派も反対派も言い分があるし、ほかの見方もある。すべて聞いてみようよと。そしてあとは見ている人に考えてもらおうと。その姿勢はずっと変わらないですよね。
そういう意味では、賛成派も反対派も必要ですし、双方を客観視できる中間の人も必要です。どちらか、ではなく、いろいろな立場の人を呼ぶことによって、論点を明確にしたいと考えています。
田原 ありがたいのはね、僕の「タブーに挑戦」というのを、鈴木さんは見事に実現させてくださる。全部鈴木さんがやってくれるから、僕は勝手にやるだけなんですよ。僕は何にも気を使わない。鈴木さんは僕らにはわからない細やかな神経を使って、何とか番組を持続させようと、ご苦労にご苦労を重ねてやってくださっている。ありがたいですね。
――事前に、朝生を見ている人、または、見たことがある人たちから、おふたりへの質問を募ってきました。まず1つめの質問です。「出演者はどのように決め、いつから交渉に当たるのですか?」
鈴木 先ほど、やりたいテーマはいっぱいあるとお話しましたが、テーマはあったとしても、どういう方向で番組を構成すべきか、なかなか決まらないこともあります。
こういうことをやろう、それなら出演者はこの人とこの人の組み合わせがいいね、この人は最近こういう発言をしているからこの人もいいね、といった感じです。そこでだいたい30〜40人ぐらいのお名前が挙がってくるわけです。
その後に出演交渉を始めるのですが、お忙しいかたばかりですので、タイミングが合わずに出演がかなわないこともよくあります。そうなると、予定していた組み合わせも変わり、出演候補者が次々と変わっていく。当初予定していた出演候補者と結果的にまったく違うメンバーになることもあります。
田原 その出演交渉を、先ほど名前が出た、吉成さんがずっとやってくださっているわけですよ。36年間。
――出演交渉を担当されているのは、たったお一人なんですか?
鈴木 原則一人の仕事です。出演交渉の際、「こういうテーマで、こういう議論をします」と相手に説明しますよね。その際、すでにAさんが決まっている場合は、「Aさんはこういうことを言いたいようです」とBさんに説明することもあります。テーマの説明だけではなく、出演者の組み合わせを考慮しながら出演交渉する必要があるんですね。出演者の誰が何を言いたいのか、これが一本化されていないと、流れもバラバラになってしまいますし、議論もすれ違いになってしまいます。
田原 吉成さんがいいのは、主体性を持って交渉してくれるんですよ。
鈴木 田原さんもスタッフも、いろいろな出演候補の名前を挙げます。でも、吉成さんが「この議論の流れなら、この出演者がふさわしいのではないか」と提案され、実際にそのかたに出演してもらうと、ガラリと番組が変わるんです。「あ、これこそ、朝生の議論だ」と。本当にマジックのようです。最近は、手島さんという若いディレクターが吉成さんを補佐し、「ヨシナリズム」の継承に努めています。
――2つめの質問です。「番組中に言い争った人たちは、番組終了後も険悪なままなのですか?」。
鈴木 昔は番組終了後もずっとけんかしていたようでした(笑)。コロナ禍が始まる前までは、番組終了後に軽く乾杯するささやかな慰労会があったのですが、かえって仲良くなるケースもありますね。「本番中は言えなかったけれど実はね」という話をしたり。番組終了後の歓談のほうが本番中の発言よりもおもしろいということもよくあります。
田原 番組中ずっとけんかしていた人同士が、そのまま意気投合して飲みに行ったりね(笑)。こういう機会がなければ、お互いが腹を割って話し合うことなんてないですからね。