「20年縛り」には
嫌らしい意味がある

 筆者は過去に12回の転職を経験していることもあり、この制度を知らないわけではなかったが、こんなに差別的で、しかも制度として存在する意味のない税制が、よくもこれまで存続してきたものだと思う。

 ただひたすら長く勤めた人の退職金を、本来公平であるべき税金の世界で、どうして有利に扱わなければならないのか。例えば、勤続18年目のサラリーマンが会社を辞めようかと考えたときに、「いや、待て。20年超勤めると退職金の税金が有利になるから、もう少し我慢するか」と思うことに、社会的にプラスになる意味はあるのか。

 率直に言って、この制度は不当な「差別」だ。憲法に反するか否かといった問題は暇人の検討に任せるとしても、倫理的には明らかにまずい。一労働者としての筆者は、良くない制度だと思い腹を立てていたが、日本はこの程度の国なのだろうと思って諦めていた。

 ちなみに、かつては勤続20年を境に退職金や企業年金の条件が大きく変わる制度を持つ会社が多かった。筆者は、20代の頃にある信託銀行に転職する際に、人事部の課長から「勤続20年の条件は満たせる計算だから大丈夫だな。頑張って」と言われた覚えがある。多くの銀行で、20年目を境に退職金と年金が大きく増える仕組みになっていた。この課長氏が大丈夫と計算してくれたのは、その銀行では50歳から社外に転籍して銀行に籍がなくなるケースが多かったからだ(今でも、こうした人事制度の銀行は少なくないが、「人材の無駄使い」だ)。

 勤続20年というと、大学卒業時に入社するとして43歳くらいになる。転職市場では人材価値が大きく下がる頃合いだ。この辺に中間ゴールを設定するとは、人事制度とは狡猾にできているものだ。ここまで来てしまうと、会社に従うしかないと諦める者が多かろう。

 筆者の友人に、銀行の制度を頼りに「勤続20年までは転職を我慢する」と言っていて、FA(フリーエージェント)権の取得を待っていたら盛りを過ぎてしまったプロ野球選手のようになって、転職の機を逸した人物がいる。そのため、「20年」にはそれなりの意味を感じるが、これを税制上も後押しするかのような現行制度がいいわけはないと思う。