退職金の税制見直しで
高齢サラリーマンに増税するのか?

 一方、「見直し」の詳細はまだ明らかになっていないが、どうやら勤続20年超の退職金に対する税制上の優遇措置を縮小することをもって政策とするらしい。「不当な差別の解消」はいいとしても、これから退職金をもらう50代、60代のサラリーマンに対して今実質的に増税するというのは、いかがなものだろうか。

「賃上げで、経済に好循環を」と言っている口先と逆のことをしている。財務官僚とは、そこまでして増税したいと考える生き物なのか。

 退職金の税制優遇が縮小されると、たぶん、これに合わせて退職金自体を縮小する企業が出てくるだろう。退職金にせよ、企業年金にせよ、企業側では税制上より有利な形で社員に人件費を渡す手段として制度を設計している。この場合、退職金を縮小するのはいいとして、その分を企業年金に振り替えるなど何らかの埋め合わせがないと、高齢社員の側では単なる減収のきっかけになる可能性がある。

 この辺りの損得をチェックするのは労働組合の仕事になりそうだが、果たして読者がお勤めの会社の組合は頼りになるのだろうか。

退職金に何の意味があるのか
税制上優遇する意味は全くない

 そもそも、退職金という制度には何の意味があるのか。

 現代の実質的な意味は、「税制上有利に渡すことができる報酬」という以上のものはないように思われる。嘘だと思うなら、退職金に対する税制上の優遇を一切なしにしてみるといい。世の中の大半の退職金制度がなくなるだろう。

 もともと、退職金、さらには歴史的に退職金から変化して派生した場合が多い企業年金について、「奉公の評価に対して特別に与えられる報奨金」的な性質のものなのか、「単なる給料の後払い」だと考えるべきものなのか、という思想上の論争が存在した(年金の受給権を論じるときなどに蒸し返された)。今では、給料の後払い説の支持が圧倒的だろう。退職金を、会社側の意思で後から増減するような行為への納得性は乏しい。

 それ以外に考えられる退職金の意味は、せいぜい定年という理不尽な理由でクビにする社員が化けて出てこないように持たせる持参金という程度のものか。