従業員ウェルビーイングに関わる取り組みのポイント

 人的資本関連情報の開示の義務化等の影響もあり、大企業をはじめとして、さまざまな従業員向け施策が講じられてきている。この点、ウェルビーイングを扱ううえでは、その状態を把握するにとどまるのではなく、打ち手につなげるための踏み込んだ分析が必要である。この前提を踏まえ、PwCコンサルティングが提唱する従業員ウェルビーイングに関わる取り組みの三つのポイントについて、順を追って説明する。

 一つ目は、競争優位につなげられているかという点に鑑み、定量的検証に基づき従業員向け各施策の優先順位をつけることだ。多くの企業では従業員のエンゲージメント向上などを目的にさまざまな人事施策を展開しているが、実際どの施策が効いているのか、いないのか、疑心暗鬼のまま取り組んでいる担当者が多いのではないだろうか。

 そこで幸福度を切り口に定量化可能なウェルビーイングを目的変数とし、各人事施策がその向上にどれだけ寄与しているかを定量評価することで、疑心暗鬼の霧を晴らし、有効な人事施策の見極め(施策の断捨離・精緻化)が可能となる。結果として、施策の有効性という定量的な根拠に支えられながら、従業員ウェルビーイングの向上に前向きに取り組むことができるようになる。

 二つ目は、多様化する従業員の価値観・働き方に鑑み、インターナルマーケティングの観点から従業員特性を細かく把握するためにアナリティクス等を活用し、その特性に応じた対応を行うことだ。VUCAと呼ばれる不確実性が高く将来の予測が困難な時代において、イノベーションを起こし、新たな価値を提供し続けるためには、テクノロジー等の専門領域や性別、国籍等の垣根を越えた人材の多様性が不可欠である。これはまさに、各社が取り組みに躍起になっているテーマである。一方、組織が多様性に富むということは、従来の同質さを前提としたマネジメントが通用しないことも意味する。

 そこで、従来の従業員満足度調査などに幸福度に係る設問を組み込み、高度なアナリティクスを活用して、幸福度を基軸とした立体的な従業員理解(幸福状態の層別可視化)を行うことが有効となる。これにより、個々の特性を踏まえたより深いインサイトの導出が可能となり、打ち手につなげやすくなる。つまり、特定の誰かである“Aさんたち”の顔を想起できるようになることで、これまで顔の見えない“従業員”に対して行っていた施策をよりシャープに精緻化、もしくは断捨離できるようになる。

 三つ目は、本取り組みは人事部マターではなく、経営マターとして経営部門が主導(CHRO〈Chief Human Resource Officer〉やCWO〈Chief Well-being Officer〉)の設置、管轄)するということだ。従来の人事部門は、報酬制度や人事異動などのどちらかというと定常業務寄りの業務を中心としていたが、昨今はCHROやHRBP(Human Resource Business Partner)と呼称される、事業成長を人と組織の面からサポートする役割が高まるなど、いわゆる人事機能の戦略化が進展している。経営戦略に対し、中長期的な視点でどのような人材が必要であり、どのように獲得・育成するかを、戦略的観点で思考する重要性が高まっているのだ。

 ウェルビーイングはその文字面だけを見ると、従来の人事部マターとして扱うのが一般的であるように思えるが、従業員満足度にとどまらない、より守備範囲の広い概念であるため、競争優位の源泉という観点から、人事戦略上どのような位置づけとし、目指す姿と現状のギャップをどう埋めていくかなどの戦略思考が必要となる。そのため、CHROを筆頭としたCEO、COO等の経営層、場合によってはCWOの設置等を通じて、経営マターとして対峙・推進していくことが重要だ。