従業員向けウェルビーイングの取り組みの有効性と留意点

 これまで紹介してきたWXは、企業によって組み込み方や優先取り組み領域が異なるが、その中でも従業員向けWXが、消費者向けWXや全社WXと比較して、ステークホルダーが限定的で取り組みやすい。また、相対的に効果に即効性がある。こうしたことを踏まえ、まずは従業員向けWXに着手することが有効な選択肢である。

 従業員のウェルビーイングを高めることは、生産性や創造性、リテンション意向の向上等の、企業であれば喉から手が出るほど手にしたい果実が得られることに加え、従業員エンゲージメントの高まりを通じたカスタマーエクスペリエンス(CX)の向上など、さまざまな経済価値を創出しうることはこれまで論じてきたとおりだ。

 ただし、従業員向けをはじめ、ウェルビーイングの取り組みは表面的に実施してもその果実は得られない。見せかけの活動として従業員や顧客から見られた場合、サステナビリティ領域で“グリーンウォッシュ”と揶揄(やゆ)されているように、ウェルビーイングの取り組みでもレピュテーションリスクを招いてしまう恐れがある。

 したがって、ウェルビーイングに取り組む意義と目的を明確に定めたうえで、一企業としての確固たる信念を持ちながら、地道に取り組んでいくオーセンティックな活動であるということを理解し、一歩ずつ着実に前進していくことが重要となる。

全業界で重要度が増す「従業員向けウェルビーイング」 髙木健一(たかぎ・けんいち)
PwCコンサルティング合同会社 Strategy& ディレクター。消費財をはじめとする幅広い業界に対するビジョン策定、全社/事業戦略、顧客戦略/マーケティング/ブランディング、新規事業開発、組織変革等の戦略コンサルティングを手掛ける。また、ウェルビーイングを起点とした経営をテーマにして、アカデミア等との連携を踏まえて、書籍、寄稿、登壇、動画出演等による多数の情報発信や調査、関連プロジェクトを行う。ベネッセコーポレーションにてマーケティング・編集業務、ボストン コンサルティング グループ(BCG)、アクセンチュアにてコンサルティング業務を経験し、現職。京都大学理学部卒、香港科技大学経営学修士(MBA)。

 

全業界で重要度が増す「従業員向けウェルビーイング」上野 菫
PwCコンサルティング合同会社 アソシエイト
PwCコンサルティングに新卒入社後、B2B向け新規事業計画戦略策定、B2C向け顧客調査・マーケ戦略策定支援を中心としたコンサルティングにおいて実績を積む。幸福度イニシアチブのコアメンバーとして、ウェルビーイングを起点とした国際比較従業員幸福度調査、消費者調査等に携わる。国際基督教大学教養学部卒。