PwCコンサルティングの従業員ウェルビーイング向上に向けた取り組み
ここまで従業員向けウェルビーイングに取り組む際のポイントを解説したが、ここからはPwCコンサルティングが2022年10月に実施した従業員実態・幸福度調査(n=1,106)の結果およびその後のPDCA活動を一部紹介することで、具体的な取り組み方のイメージを提供したい。
本取り組みは、調査設計の段階からCHROを巻き込み、打ち手につなげることを前提に全体プランニングを行っている。現在、コンサル業界は優秀人材の獲得競争が激化しており、候補者をひきつける必要がある。PwCコンサルティングが、中途採用ブランディングで訴求している「やさしさが生む、強さがある。」というスローガンからも見て取れるように、他ファームとの差別化やクライアントへの提供価値の向上などを実現するための手段としてもウェルビーイングを活用している。
では、調査結果の中身を説明していこう。本調査では、職階/年代/組織別等の幸福度をはじめとした基礎的な内容に加え、生産性/創造性などの人事/ビジネスKPIや、仕事内容に対する入社前の期待との一致度、パーパスの理解度・共鳴度との幸福度の関係性等の分析を行っている。今回は、本連載の趣旨に基づいて、「ハイパフォーマーを規定する最重要影響要因」「現行施策の幸福度関連指標に対する貢献効果」「従業員クラスター分析」の結果を順に紹介する。
PwCコンサルティングの中でもハイパフォーマー人材(主観評価で生産性/創造性ともに高く発揮できていると回答)の規定要因を、価値観や性格特性、現状の職務に対する満足度等の情報をインプットとして決定木分析で抽出した。その結果、ハイパフォーマーを規定する最重要影響要因は「仕事内容に対する入社前の期待との一致度」であることが明らかとなった。また、仕事内容に対する入社前の期待との一致者の方が、不一致者に比べて明らかに幸福度が高い傾向にあった。
詳細な内容は割愛するが、例えば経営課題として従業員のパフォーマンスのバラツキに課題を感じている場合、パフォーマンスを発揮してもらうためのドライバーを可視化し、そのメカニズムを把握したうえで適切な施策を投下することは、課題解決の重要な糸口になるだろう。このように、自社の漠とした課題のメカニズムを解き明かし、対象および施策内容をシャープにすることが、効果や効率性の観点からも重要なのは疑いない。
図表1は、横軸を活用者率×満足度による総合評価を示す「短期的なHappiness効果」、縦軸を幸福度関連指標へのパス係数最大値を示す「長期的なWell-being効果」として、PwCコンサルティングが取り組んでいる主な施策をプロットしたものである。
これにより明らかなのは、幸福度基点で施策を評価した場合、その効果の度合いと時間軸が明確に異なるということだ。前述した通り、人事施策は効果測定が難しく、担当者の肌感覚や経験を頼りとして、確信を持たないまま取り組んでしまいがちだが、このように可視化・マッピングすることで有効な人事施策の見極め(施策の断捨離・精緻化)が可能となる。企業を取り巻く環境が激変し経営課題が複雑化する中で、経営資源をできるだけ効率的に使うためにも非常に有用な取り組みであろう。
図表2は、PwCコンサルティングの従業員を、性格特性を中心としたインプットを基に七つのクラスターに分類したものである。具体例として「次世代リーダー層」「マルチアグレッシブ層」「ワークライフバランス重視層」などのクラスターがあるのだが、各クラスター間で差があり、特徴をつかみやすくすることがクラスタリングの肝である。
例えば、「次世代リーダー層」は20代/新卒入社の比率が高く、読書等の学習実施率や生産性/創造性の発揮状況が軒並み高いクラスターであるが、全社平均と比較して幸福度およびリテンション意向が高くなっている。こうしたクラスタリングには相応のデータ分析リテラシーが求められるが、従来のデモグラ情報などを基礎とした抽象的な理解にとどまらず、幸福度を基軸として立体的な従業員理解を行うことができる、つまり、打ち手につなげやすいという点で非常に有用である。
また、どの業界においても企業間の人材争奪戦が激化している近年、従業員の幸福度やエンゲージメントの向上を通じてリテンション意向を高めることは喫緊の課題になっているが、こうしたクラスタリングを通じて、課題感を抱える退職予備軍の特定、その理解の深化につなげることが可能なことも特筆すべき点だ。
これまで説明した分析結果は一例ではあるが、従業員ウェルビーイングの向上に取り組むイメージを持っていただけただろうか。現在PwCコンサルティングでは、特定部門を対象としてさらなる幸福度実態の調査や施策の検討・実施、効果検証等のPDCAサイクルを回している最中である。パイロット展開の対象組織の選定にあたっては、一般的には幸福度に課題感がある組織や取り組みに前向きな組織、全社のお手本になる組織など、いくつかの切り口が考えられるため、自社の状況に合わせて最適なところから始めることを推奨したい。