その夜珍しく夢を見た。私はあまり夢を見ない体質なのだが……。夢の中で私は戦場にいた(ような気がする)。阿鼻叫喚の中、多くの人たちが逃げ惑いながらこちらに向かって走って来る。実際には耳に音は聞こえてこないのだが、不思議と身体に声を感じる。声の先には人がいた。走っていた。何者かに追われているのだ。何者なのかは暗くてよくわからない。闇の中を人々が通り過ぎた後、さらに三人の男の姿が目に入ってきた。三人とも何者かから逃れようと後ろを何度も振り向きつつ必死に走っていた。私はなす術もなく少し離れた場所からその光景を眺めているだけだった。
するとローマ兵が使うグラディウス(先端が鋭角になった刃渡り50センチメートルほどの刀剣)がとうとう彼らを捉えた。一閃! それは一瞬の出来事であった。三人が崩れ落ちる際、私は彼らの前に立っていた。なぜだか気づかないうちに移動していたのだ。2メートルほどの距離で目にした彼らの苦悶の表情は今でも忘れることができない。彼らの目にも私の姿は映ったのであろうか。
その後、グラディウスによって彼らの首がはねられたのかどうかは知らない。なぜなら突然耳の近くで鳴り出した目覚まし時計のアラームに叩き起こされたからだ。窓からのぞく外はまだ暗かった。すぐに夢だと気づいたが、あまりにもリアルであったのでまだ声が耳に、臭いも鼻に残っている感覚が抜けていなかった。
その後、イタリアやエジプトでも発掘調査を経験したが、後にも先にもあのような不思議な体験をしたことはない。