産業革命で生まれた新しい会計手法

 鉄道事業を行うためには、蒸気機関車はもちろんのこと、レールや駅舎など多額の初期投資が必要となりますから、株主や銀行から多額の資金を調達しなければなりません。

 ところが、設備投資に使った資金をそのまま費用としてしまうと、投資をした年は利益が大幅な赤字になってしまいます。そうなると、会社の業績は悪いように見えます。そんな事業計画書を見せられてお金を出す株主も銀行もいません。これでは多額の資金を調達できません。

 このような状況を打開するために、産業革命の時代に新たな会計処理方法が考え出されました。それは、設備投資に支払った金額を、その設備を使用する年数にわたって費用を分割計上するという方法です。そうすれば計上される費用が平準化されますから、設備投資した年が大赤字になることがなくなります。

 こうして「減価償却(げんかしょうきゃく)」という会計処理が生まれました。

 もし、減価償却という考え方がなかったら、毎年のキャッシュの増減に一喜一憂することになりますから、どうしてもその年限りの短期的な視点になってしまいます。

 それでは多額の設備投資を長期的に回収する設備産業や装置産業はできません。減価償却というものが考え出されたおかげで、長期的視点に立ったビジネスモデルが初めて可能になったのです。

減価償却の対象は「固定資産」

 減価償却は、固定資産に対して行われる手続きです。

 たとえば、100億円の設備を取得した場合、取得時に100億円のキャッシュ・アウトをしても、それを費用に計上しません。100億円は貸借対照表に資産として計上します(【図表】の〈1〉)。この100億円を「取得原価」と言います。

 その後、その設備が使えるだろうと思われる期間にわたって、取得時の100億円を費用として分割計上します(【図表】の〈2〉)。ここでは5年にわたって均等に分割計上する設定です。設備が使えるだろうと思われる期間を「耐用年数」と言い、分割計上される費用を「減価償却費」と言います。

 また、減価償却費と同額だけ貸借対照表の計上額を減額していきます(【図表】の〈3〉)。減額後の金額を「固定資産の帳簿価額」または略して「簿価」と言います。簿価はまだ償却が済んでいない未償却残高ということです。

 これが減価償却という手続きです。