減価償却の理論的妥当性

 歴史的な経緯を見ると、減価償却という処理は、多額のお金を使ったにもかかわらず、利益が出ているように見せるための便法のように感じるかもしれませんが、実は理論的にも理に適っています。

 第一に、株主であった時期の違いによる不公平感をなくすことができます。

 設備投資をした年にその全額を費用計上すれば、その年は赤字になります。そうなると、その年に株主だった人には配当がなされません。

 一方、設備投資の翌年度以降は既に取得した設備を使うだけですから、費用はほとんど発生せず、多額の利益が出ることになります。そうなると、設備投資の翌年度以降に株主になった人たちには十分な配当が行われることになります。

 設備投資の翌年度以降の利益は最初の苦労があったからこそなのに、苦労した時期に株主だった人には配当されず、苦労した時期を知らずに後から株主になった人には配当がされるというのは、さすがに公平性に欠けます。

 新人選手を獲得し育成した監督が辞めた後にその選手が大活躍したら、活躍したときの監督だけが称賛され、苦楽を共にした最初の監督には何の報いもないようなものです。

 設備投資で使ったお金を分割して費用計上すれば毎期利益が平準化されますから、株主だった時期の違いによる不公平感は解消されることになります。

 第二に、費用と売上高の対応関係が合理的になります。

 そもそも、最初に設備投資で費やしたお金はその年のビジネスだけで回収しようとは思っていないはずです。

 その後の複数年にわたる売上高で投資した資金を回収しようと考えているはずです。それなのに、設備投資をした年にその全額を費用に計上し、その年の売上高だけと比較して赤字だと言うのは非合理的です。

 設備投資額をその設備を使う期間にわたって分割して費用計上すれば、その設備を使用する期間のすべての売上高と対応させることができます。費用と売上高の対応関係という意味では、このほうが理に適っています。

 これは費用収益対応原則の考え方です。費用収益対応原則とは、「費用は収益獲得の経済的犠牲なので、収益に貢献した部分だけを収益に対応づけて費用として計上する」というものです。減価償却は、その原則にも則っています。

 設備を購入した時点では、設備という資産と現金という資産の、資産どうしの等価交換です。ですから、この時点では資産は減少していません。

 では、その資産の価値はいつ減少するのでしょうか。