ポーランドのウクライナ戦争参戦に危惧~歴史人口学者が鳴らす警鐘「問題はアメリカだけではない」池上彰氏

トッド 最近ですね、在仏ポーランド大使のインタビュー動画を見たんですけども、驚くことに彼は、「たとえばウクライナ軍が危機に陥ってしまったならば、ポーランドが戦争に入る」といった趣旨のことを発言していたわけですね。

 この一連の動きは、日本にとっては、ウクライナやバルト3国などはひじょうに遠い国であるとは思うんですけれども、ただし、この不安定なゾーンというのは、世界的な不安定さを生み出すという危険性もあるということについては、やはり注意するべきものだと思います。

 ポーランドがウクライナ戦争に参加するようなことになってしまったら、本当にひどい状況になると思います。

 けれども、現実にポーランドが徐々に再軍事化を進めていて、実はフランスより、いや、ドイツなどよりも強い軍事国家になりつつあるというような話もあります。

ポーランドのウクライナ戦争参戦に危惧~歴史人口学者が鳴らす警鐘「問題はアメリカだけではない」『問題はロシアより、むしろアメリカだ 第三次世界大戦に突入した世界』
エマニュエル・トッド(著),池上 彰(著)
定価869円
(朝日新聞出版)

 要するに、「問題はアメリカだけではない」という点は、ひじょうに留意しておくべきことだと思います。

 この地域圏に関しては、あともう一つ付け加えるならば、ヨーロッパにおいてとてもユダヤ人の人口が多かった地域であるという点があります。

 つまり、中流階級がそこにいたというわけなのです。

 戦争で、ひじょうに多くのユダヤ人が殺戮されて、その中流階級も破壊されてしまったという歴史があります。アメリカの歴史家で、イェール大学教授のティモシー・スナイダー氏は、その地域を「ブラッド・ランド(流血地帯)」というふうに呼んだわけですね。

 まさしくそういった地域で、ひじょうに危険を感じさせる、悲劇の地でもある。不安定性を生み出すような危険な地域ということで、そしてそれが、私を不安にさせる要因の一つでもあるわけです。

エマニュエル・トッド(Emmanuel Todd)
歴史人口学者・家族人類学者。1951年、フランス生まれ。家族構成や人口動態などのデータで社会を分析し、ソ連崩壊などを予見。主な著書に『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』(文芸春秋)『第三次世界大戦はもう始まっている』(文春新書)など
池上 彰(いけがみ・あきら)
ジャーナリスト。1950年、長野県生まれ。NHKの記者やキャスターを経て、フリーに。名城大学教授、東京工業大学特命教授。主な著書に『世界史を変えたスパイたち』(日経BP)『第三次世界大戦 日本はこうなる』(SB新書)など

AERA dot.より転載