「世界史とは、戦争の歴史です」。そう語るのは、現役東大生集団の東大カルペ・ディエムだ。全国複数の高校で学習指導を行う彼らが、「戦争」を切り口に、世界史の流れをわかりやすく解説した『東大生が教える 戦争超全史』が3月1日に刊行される。世界史、現代情勢を理解するうえで超重要な戦争・反乱・革命・紛争を、「地域別」にたどった、教養にも受験にも効く一冊だ。古代の戦争からウクライナ戦争まで、約140の戦争が掲載された、まさに「全史」と呼ぶにふさわしい教養書である。元外務省主任分析官である佐藤優氏も絶賛の声を寄せる本書の内容の一部を、今回は特別に公開する。
ウクライナで生まれた「親欧米派」と「親ロシア派」の対立
2014年から始まったのが「ウクライナ紛争」です。これは、ロシアのクリミア併合をきっかけとして起こった、ロシアを後ろ盾とする「親ロシア派」と「親欧米派のウクライナ政府」との紛争であり、現在まで続くウクライナ戦争の大きな要因の一つになっています。
1991年のソ連解体後、ソ連から独立したウクライナでは、「親欧米派」と「親ロシア派」との対立が深まっていきました。
2004年には大統領選挙に不正があったとして抗議運動が起こり、親欧米派のユシチェンコ大統領が誕生しました(オレンジ革命)。しかし、ユシチェンコ大統領のもとで政治的混乱が続くと、2010年にはオレンジ革命で一度は排除された親ロシア派のヤヌコビッチが大統領に返り咲きます。
ところが、そのヤヌコビッチ大統領も2013年からの親欧米派による抗議運動(ユーロマイダン革命)で追放され、今度は親欧米派のポロシェンコが大統領となりました。
ロシアの「クリミア併合」が起きる
これを受け、ウクライナでは親ロシア派による抗議活動が始まりました。そして、親ロシア派とみられる武装勢力がクリミアの議会を占拠し、クリミアのウクライナからの独立、そしてロシア編入をめぐる住民投票を実施しました。結果は賛成多数で、翌日にはクリミアはウクライナから独立を宣言し、ロシアに編入されることになりました。
もちろん、ウクライナや欧米各国はこの住民投票の正当性について疑問を投げかけました。しかし、ロシアはそれを無視してクリミアを併合し、軍を配備するなどして実効支配を進めていきました。
ロシアがクリミアをこうまでして欲しがった理由には諸説ありますが、西側諸国をけん制するため、軍事上の要衝を獲得するためなどが考えられます。このクリミア併合をきっかけに、ウクライナ東部の一部地域で、親欧米派のウクライナ政府軍と親ロシア派武装勢力による紛争が始まったのです。
「ミンスク合意」で停戦するも、ウクライナ東部での紛争は続く
親ロシア派武装勢力は、ウクライナ東部のドンバス地域を占拠し、それぞれドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国と名乗りました。
ウクライナ政府は武装勢力を追い詰めますが、ここでロシア軍兵士が「義勇兵」として参戦し始め、正規のロシア軍もウクライナ国境に集結しました。ここではロシアは、あくまでこれをウクライナにおける「内戦」と主張し、支援しているという立場を取っていたのです。
2015年には、ドイツ・フランスの仲介により、ウクライナ政府と親ロシア派とのウクライナ東部での停戦、外国部隊の撤退などを決めた「ミンスク合意」が取り交わされました。
しかし、この合意はあくまでロシア側に有利な条件でした。武装勢力が実効支配している2つの州には特別な地位が認められ、幅広い自治権を認める内容となっていたのです。そのため、合意後もウクライナ東部では紛争が続き、それが2022年に起きたロシアのウクライナ侵攻の大きな要因の一つになっています。
(本原稿は、『東大生が教える戦争超全史』の内容を抜粋・編集したものです)
東大カルペ・ディエム
現役の東大生集団。貧困家庭で週3日アルバイトをしながら合格した東大生や地方公立高校で東大模試1位になった東大生など、多くの「逆転合格」をした現役東大生が集い、全国複数の学校でワークショップや講演会を実施している。年間1000人以上の生徒に学習指導を行う。著書に『東大生が教える戦争超全史』(ダイヤモンド社)などがある。