ここで脳の構造について簡単に見ていきたいのですが、多くの方は「脳は神経細胞の塊である」と思っているのではないでしょうか。脳は神経系の中枢であり、神経細胞(ニューロン)が整然と並んでいて、高速の情報処理をしているというイメージをいだいていると思います。

 しかし、違うのです。実は、脳の8割は“グリア”と呼ばれる神経ではない細胞でできているのです。しかも、「アストロサイト、オリゴデンドロサイト、マイクログリア」という3種類ものグリア細胞が存在していて、それぞれ全く違う働きをしています。ですから「脳はグリア細胞の塊である」と言った方がはるかに正確かもしれません。

 以前には、グリア細胞は中枢神経系の中でニューロン以外の場所を埋めているだけの単なる支持細胞であると考えられていました。しかし近年の研究で、このグリア細胞がニューロンと豊富なネットワークを作り、神経活動の維持に重要な働きをしているということがわかってきたのです。

 3種類のグリア細胞はそのネットワークの中で、それぞれ別々の働き方によってニューロンを支え、複雑な脳機能を生み出すとともに、その命運を握っています。日々入ってくる膨大な情報の中から重要な情報を「選択」し、そこに「集中」するために、そして激務をこなすニューロンをメンテナンスするために、自らそれ以上の激務をこなしているのです。しかし、どんなにしっかりとメンテナンスをしても激務による疲れは蓄積し、脳の細胞は徐々に死んでいってしまいます。これが「老化」という現象です。

脳の老化を防ぐために意識すべき「脳の二相性」とは

 この老化を抑えて、「脳を守る」ためにはニューロンと3種類のグリア細胞が織りなす複雑なネットワークの崩壊を防いでいくことが重要です。

 そしてその第一歩は、グリア細胞を護ることです。3つのグリア細胞のなかでも最も繊細かつ死にやすい細胞であるオリゴデンドロサイトを護る、という発想が脳を守るための効率の良い方法です。それは認知症になるリスクを減らし、年をとってからもみずみずしい脳機能を維持することにつながります。

 オリゴデンドロサイトが死ねばほかのグリア細胞やニューロンも引きずられて死んでいってしまいます。その結果が脳の萎縮であり、認知症の症状が出現して、普通の日常生活を送ることが困難になってしまうのです。

 脳は構造的に老化しやすい臓器ですから、なんとかそのダメージを最小にして細胞の減少を最低限にしていくしかありません。認知症は症状が出始めてから治療を考えるのではなくて、その予防が重要であり、年を取ってから意識するのではなく、できるだけ若いときからリスクを減らすための努力・生活習慣を心がけていくべきなのです。