海運激変! トランプ関税下の暗夜航路]#7Photo by Yoshihisa Wada

コロナ禍後も活況が続く海運業界。日本郵船は不定期専用船3事業(自動車、エネルギー、ドライバルク輸送)を屋台骨に据え、安定収益の基盤を強化している。その上で曽我貴也社長は、「120%の力」で挑むべきは将来の成長を見据えた新規事業だと語る。次世代の柱をどう育て、世界で戦うのか。特集『海運激変! トランプ関税下の暗夜航路』#7では、日本郵船の描くグローバル経営の未来像に迫る。(ダイヤモンド編集部 田中唯翔)

ボラティリティ克服に向けて
主力3事業を強化

──2025年3月期の業績好調の要因として、コンテナ船事業だけでなく、自動車、エネルギー、ドライバルク輸送の3事業が力強く安定してきたことを挙げられています。この3事業を強化する狙いを教えてください。

 基本的に海運業はボラティリティが高いと見なされており、それ故に新たに株式を購入する投資家にとって、リスクの要因と受け止められがちです。この点をどう払拭していくかが経営課題の一つです。

 日本郵船としては、本体事業である自動車、エネルギー、ドライバルク輸送の3分野の基盤を強化し、これらのボラティリティを抑えることで安定的な成長の“機関車”としての役割を担っていく方針を、中期経営計画の開始当初から掲げて取り組んできた。

 その中でも、特にボラティリティが高いのはドライバルク事業です。これは貨物の性質上、市況の影響を強く受けるためです。市況によっては船が余ることもあれば不足することもあり、その結果、運賃が大きく変動します。このドライバルク事業を安定させるために、二つの手法を取り入れました。

 一つ目は、日々のオペレーションにおける取り組みです。最も重要なのは、無駄なフリー船を保有しないことです。しかし、管理を徹底していても、やむを得ずフリー船が出てしまう場合もあります。そうしたケースに備え、FFA(船舶用船料の先物取引)を活用し、市況の予測がつかないリスクをできる限り抑えるようにしています。こうしたリスク管理は、徐々に成果を上げつつあると考えています。

 二つ目の手法は、船舶への投資に関するものです。無計画に船を建造し過ぎないことが重要で、近年は新たな手法として「バリュー・アット・リスク」の考え方を導入しました。これはもともと金融業界で資産運用やリスク管理に使われる手法ですが、当社のドライバルク船の投資判断にも応用できないかと研究を進め、実際に導入しています。新造船に投資する際、その将来的な価値の変動リスクを評価し、生み出す収益が投資に見合わないと判断された場合は、見送るようにしている。

──エネルギー事業についてはいかがでしょうか。

 業績の主体となるのは液化天然ガス(LNG)輸送です。この船は基本的に、顧客との長期契約を前提として建造されており、需要と供給が一致した状態で運航されている。そのため、長期にわたる安定的な収益が見込まれ、もともと極めて安定した事業です。

 さらに、LNGに加えて脱炭素の観点から、液化石油ガス(LPG)やアンモニアなどの新たな貨物の需要が今後も高まると見込んでいます。

 この分野の強化に向けて、当社はエネルギー輸送を手掛けるENEOSオーシャンの一部事業を買収しました。これにより、当社がすでに保有しているLPG船やケミカルタンカーの体制をさらに補強し、安定収益の源泉を一層拡大していく方針です。

──自動車船事業についてはどうでしょうか。トランプ米大統領の関税政策から、日本の各自動車メーカーでは現地生産を拡大する考えを持つ企業も多いですが、業績への影響をどう見ていますか。

日本郵船の「非常に強みとする分野」である自動車船事業は、トランプ関税下でどのような影響が出るのか。そして、その本業に加えて曽我社長が重視している新規事業とは何か。次ページで公開する。