骨太の方針が目指す「資産運用立国」、家計金融資産の“開放”がはらむ問題とは?Photo:PIXTA

今年の骨太の方針では、家計金融資産を開放し、持続的成長に貢献する「資産運用立国」を実現すると記された。預貯金偏重の家計の資金を投資に振り向けることを意図している。しかし、低成長ゆえに預貯金偏重になった因果関係を認識した上で策を講じていかないと、思わぬデメリットが生じかねない。(みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト 唐鎌大輔)

家計金融資産の「開放」を目指す政府
為替だけでなく円金利も懸念材料あり

 政府は6月16日、2023年の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」を閣議決定している。ヘッドラインでは新型コロナウイルス対策を筆頭に有事で膨らんだ財政出動を平時に戻すことがクローズアップされているものの、金融市場の観点からは以下のような言及も目を引いた。

「2000兆円の家計金融資産を開放し、持続的成長に貢献する『資産運用立国』を実現する。そのためには、家計の賃金所得とともに、金融資産所得を拡大することが重要であり〈中略〉これらによる家計所得の増大と併せて、持続可能な社会保障制度の構築、少子化対策・こども政策の抜本強化、質の高い公教育の再生等に取り組むことを通じ、分厚い中間層を復活させ、格差の拡大と固定化による社会の分断を回避し、持続可能な経済社会の実現につなげる」

「2000兆円の家計金融資産を開放」することの功罪は、慎重に吟味する必要がある。家計金融資産の開放にまつわる懸念は、主に二つあると筆者は考えている。

 第一に為替、第二に金利への懸念である。前者に関しては年初、ダイヤモンドオンラインの記事『今後5年間の「円安リスク」を大予想!個人の外資投資増でキャピタルフライト、円売り加速も』において、筆者が詳しく議論している経緯もあるため、今回は詳述を避ける。

 端的には「現状、95%以上が円建て資産で構成される2000兆円の数%でも外貨建て資産へシフトすれば、大変な円安圧力を生む」という懸念である。例えば、22年末時点で日本の家計は約1110兆円の現預金(円建て)を保有している。

 この10%が「強い外貨」に移ろうとするだけでも、110兆円規模の円売りが起きる。これは、22年の経常黒字の約10倍に相当する規模だ。

 22年に直面した円安は社会問題化するほどの震度だったものの、家計金融資産が外貨建て資産に向けて開放されたわけではなかった。

 仮に、家計部門がリスク許容度を高め、国内から海外へ本格的に目を向けた場合、どれほどの円安相場が実現し、また、それが輸入物価上昇を通じてどれほど日本経済の足かせになってくるのかという問題意識は抱いて当然である。

「安い日本」を象徴する出来事は枚挙にいとまがなく、そのような社会情勢から自国通貨の脆弱(ぜいじゃく)性を懸念し、外貨建て資産に関心を持つ層は今後増える可能性が高い。

 その上で政策的にも「貯蓄から投資へ」を声高に叫べば、余計にその雰囲気は強まる恐れがある。日本人は合理性よりも「皆がやっているからやる」という空気で一気呵成(かせい)に動く傾向があるため、要注意である。

 今回取り上げるのは、為替に次ぐ第二の懸念である円金利への影響だ。次ページ以降、具体的な影響を検証していく。