宿泊・飲食業で大幅賃金上昇だが、政策誤ればスタグフレーションに陥る経済全体を見ると、実質賃金の下落は続いている。実質賃金が増えないのだから実質消費は増えない(写真はイメージです) Photo:PIXTA

宿泊・飲食サービス業
名目賃金上昇率10%と突出

 消費者物価の上昇が続いているが、日本経済を全体としてみると、名目賃金の伸びは物価上昇に追いつかず、実質賃金が低下している。これは、本コラム「23年春闘『未曾有の賃上げ』は錯覚、現実は「未曾有の実質賃金下落」」(2013年5月18日付)で指摘した通りだ。

 しかし、業種別に見ると大きな違いが見られる。とりわけ大きく違うのは宿泊・飲食サービス業だ。

 毎月勤労統計調査による業種別の名目賃金指数(従業員5人以上、第1四半期、図表1)をみると、経済全体では、賃金は2010年の85.2から23年の88.0まで緩やかに上昇した。

 人手不足が言われる建設業では同期間で79.4から89.5へと、かなりの上昇。医療・介護も86.8から90.5に上昇した。ところが、宿泊・飲食サービスは、他業種とは全く異なる推移を示している。16年までは緩やかな上昇だったが、その後、下落。21年にははっきり下がった。ところが、22、23年に顕著に上昇したのだ。

 22年の賃金上昇率は名目で10%程度となり、したがって、実質賃金で見ても、大幅に上昇していることになる(本来は実質賃金指数を見るべきだが、毎月勤労統計調査では、実質賃金率指数は全体と一部の業種についてしか示されていないので、ここでは名目賃金指数を見た)。

 これは日本経済が良い方向に向かい始めた望ましい兆候なのだろうか。