築古マンションが最後に迎える最大の壁、それがマンション建替えだ。建替えを推進するための法整備も進みつつあるが、そもそもそれ以外の大きな壁が立ちふさがる。問題に直面してからでは遅い。事前の情報武装という備えが大事になる。特集『マンション管理 天国と地獄』(全18回)の#10では、マンション管理において最後で最大の難関である「建替え」について考えよう。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
旧耐震団地が新築マンションに
建替えプロジェクトを成功させるには
1967(昭和42)年に建築された、エレベーターのない古びた旧団地型マンションが、美しい高級低層マンションになった。東京都世田谷区の駒沢大学駅前にあった上馬アパートメンツのことである。2020年、建替えにより三井不動産のパークホームズ駒沢大学として新しく生まれ変わった。記事冒頭の写真の左が上馬アパートメンツ、右が建替え後のパークホームズ駒沢大学である。
もともと16戸の築50年を迎える建物だったが、これ以上大規模修繕をしても旧耐震の建物を維持できず、設備も更新できないと、理事会で建替えを目指して検討を重ねてきた。
幸い、上馬アパートメンツは立地が良く、容積率にかなり余裕のある建物だった。建替えにより余剰住戸が生まれ、それを売却することにより建替えが可能と分かった。現在の土地建物をデベロッパーにそのまま引き渡すことで、住人は無料で新しいマンションの部屋を取得できる「等価交換」方式が採用できることになった。
区分所有者は高齢者が多く、住み慣れたわが家を手放すことや引っ越しにちゅうちょするなど、当初は反対や態度保留とする人が多かった。しかし、デベロッパー数社と共同での約10回にも及ぶ建替え説明会や、建替えを推進する理事長の粘り強い情報開示と広報活動により、半年間で全区分所有者から建替えの合意を得ることができたという。
建替えの検討を始めてから、デベロッパーの選定まで1年少々。人気路線の駅前立地ということもあり、複数社のデベロッパーが建替えの提案を持ち込み、さながらコンペのような形になった。そのため、最もいい還元率(元の部屋の大きさと比較して、建替えで区分所有者が得ることのできる専有面積)百数十パーセントという条件を出した三井不を選ぶことができたという。
築40年を超える、特に耐震補強工事をしていない旧耐震マンションに住む人であれば、早晩ぶち当たるのが建替えである。
上馬アパートメンツのように、区分所有者側の持ち出しなしで新築に建て替わるとしたら――。そんな夢を見る人もいるかもしれない。しかし、残念ながらマンションの建替えを成功させるためには、高くて厚い四つの壁を乗り越える必要がある。それができなければ、築古マンションを打ち出の小づちに変えることは不可能なのだ。
そしてこれは盲点なのだが、長年同じマンションに住んでいる高齢者だけではなく、実は特定の若い層が建替えの恐ろしいわなにはまる事態が発生している。
数千万円を追加で払うのか、それとも諦めて住み続けるのか。あるいは第三の道はあるのか。マンションが最後にたどり着く建替えの夢と現実を、次ページから詳しく見ていこう。