心理学を営業に上手に使えば、短期的に業績を上げることは不可能ではない。だが、心理学は使い方1つで、会社を成長軌道に乗せられることもあれば、大切な顧客ばかりか、企業自身も傷つけてしまう危険性を持っている。心理学の効用を理解する一方で、節度ある活用を考えるべきである。

神田昌典
かんだ・まさのり/上智大学外国語学部卒業。外務省経済局に勤務後、ニューヨーク大学経済学修士(MA)、ペンシルベニア大学ウォートンスクール経営学修士(MBA)取得。米国家電メーカー日本代表を経て、経営コンサルタントに。ビジネス書、小説など多彩なジャンルの執筆活動や監訳、テレビ番組企画出演、ミュージカルプロデュースなど幅広く活動。著書は『成功者の告白』『60分間・企業ダントツ化プロジェクト』など多数。(撮影/和田佳久)

 心理学とビジネスの関係は、つながりが深いように見えて、まだまだ相互理解がされていないと、私は感じている。人間の心理を分析して行動することは、マーケティングにおいても、マネジメントにおいても、非常に重要になってきていることは間違いない。

 だが実際は、ビジネスの現場では、心理学をきちんと勉強しないで使ってしまっている。特に臨床心理学において、患者の心の問題を解消するために使われているテクニックを、ビジネスで使っていいのかという議論がされないまま、営業や交渉に使われている。この現実を私は危惧している。

 心理学の知識を顧客のために使うのであればいいが、自分あるいは企業の利潤を上げるためだけに使うというのは、心理学的知識の誤用であり、非常に危険でもある。心理学的テクニックは使う者の倫理感が厳しく問われる。

心理学を使った営業を行なうと
信用とブランドに傷がつくことも!?

 こういうと、「自分は真っ当な商品を売っている」といった反論や「コンプライアンスをきちんとして、返品も受け付けているのだから問題はない」という意見もあるだろう。