「いい会社」はどこにあるのか──? もちろん「万人にとっていい会社」など存在しない。だからこそ、本当にいい会社に出合うために必要なのは「自分なりの座標軸」である。そんな職場選びに悩む人のための決定版ガイド『「いい会社」はどこにある?』がついに発売された。20年以上にわたり「働く日本の生活者」の“生の声”を取材し、公開情報には出てこない「企業のほんとうの姿」を伝えてきた独立系ニュースサイトMyNewsJapan編集長・渡邉正裕氏の集大成とも言うべき一冊だ。同書のなかから厳選した本文を抜粋・再編集してお送りする。

【4年在籍で7000万円相当も…】アマゾン元社員に聞いた「株式報酬」のリアルPhoto: Adobe Stock

見直しが進むストックオプション制度

 給与に続いて重要なのが、換金性の高い権利で、ようは「株」である。これはたしかに、紙クズになるリスクがつきまとうが、初期のスタートアップはともかく、メガベンチャーになり上場した大企業ならば、金銭的価値が、ほぼ見通せる。「後払いの賃金」である。ストックオプション(会社が決めた価格で自社株を購入できる権利)をもらい、株価が上がった段階で売却すれば、その差額がボーナスとなる。

 経営サイドから見ると、制度設計によっては、社員の「最低勤務年数」を見通せたり、「定着率向上」に利用できたり、「株価上昇・時価総額アップ」といった同じ目線で仕事ができる、というメリットがある。

 ただ、株価が上昇基調でないと、逆にマイナスのインセンティブになってしまう。昨今は、これでは意味がないということで制度が改善され、IT企業を中心に、単純なストックオプション(つまり購入する権利)ではなく、「生の株を後でもらえる権利」を提供するようになった。買うのではなく、もらうので、マイナスはない。

4年在籍で7000万円相当の株が与えられたアマゾン

 アマゾンは実に現金な会社で、年俸以外では、まず入社時に「サインアップボーナス」を支払うことがある。筆者が取材した2人はいずれももらっていた。「サインアップボーナスは200万円でした。これは2年間、4回に分けて支払われ、その時点で在籍していないともらえません」(元中堅社員)。つまり、入社したからには2年間は働いてくれよ、という人材の定着を促す目的がある。

 そして、年俸以外に、株が付与される。これはRSU(Restricted Stock Unit=売却制限付き株式ユニット)と呼ばれ、まる4年間在籍しないと、満額もらえない。つまり後払いの賃金で、かつ、その時点で在籍していることが条件だ。勤続1周年で5%、2周年で15%、以後は6ヵ月ごとに20%。つまり、100%になるのは勤続4周年を迎えたときだ。2年とはいわず、4年後までは働いてくれよ、という意味がある。

【4年在籍で7000万円相当も…】アマゾン元社員に聞いた「株式報酬」のリアル図:アマゾン入社時のRSU説明。この元社員は4年在籍で80株(2020年7月時点で3200万円相当)だった。

「私は『ランク5』の管理職クラスで中途入社したのですが、サインアップボーナスのほかに、年俸700万円+RSUが年100株ずつ(当時の株価で200~300万円)、という契約でした。ただ、3年あまりで退職したので、結局、権利行使しないまま、株はもらっていません。平均在籍年数は周囲を見ても3年ほどなので、退職によって権利が消えてしまう人も多いのが実情です」(同)

 まる4年在籍すれば、初年度に付与された100株に加え、2年目に付与された100株の3年目までの分(60%=60株)と、3年目に付与された100株の2年目までの分(15株)4年目に付与された100株の1年目までの分(5株)で、計180株が支給される。アマゾンの株価は、コロナ禍の2020年7月に3000ドルを突破。つまり、100株を持ち続けていれば、30万ドル。1ドル130円換算で、3900万円にもなる。まる4年在籍して180株もらえば、7020万円。対価として悪くない。IT株のマジックは凄まじい。

 これがニンジンとなって、キツくても4年は働こう、というインセンティブが働く。40代後半でアマゾンに転職した技術者は、株をもらって、5年目に体調を崩して辞めた。「周りの人でも、株をもらい終わったら辞める、というパターンが多かったです。ストレスで、不健康になって辞める人も目立ちます。アマゾンは、フェーズ(局面)ごとに必要な人間を雇って、そのフェーズが終わったら辞めるよう仕向け、次のフェーズに必要な人間と入れ替えていくんです」(元ベテラン社員)

 最新の物流センターを全国に展開するという自らに課されたフェーズが終わったことを悟ったこのベテラン社員も、よりチャレンジングな仕事を求め、自ら会社を去った。4年いないと満額もらえないから、4年が1つの区切りとなる。アマゾンとしては、直近の4年先までの事業計画を作り、必要な人材を手当てする。そこまでは辞めさせない。5年以上先の世界がどうなっているかはわからないし、必要な人材やスキルセットも変わってくるから、また別の人材を雇うほうが合理的なのだろう。終身雇用とは無縁の報酬制度設計になっている。