日本人がイライラする鉄道と
安心する鉄道
「次の駅は、プラットフォームが混雑していて危険なので、停車しません。次の駅は飛ばして、チャリング・クロス駅に停車します」
これは、私が2010年にロンドンに留学していた際に、地下鉄の車内で耳にし、驚愕したアナウンスである。
ちなみに、ロンドンの地下鉄は、原則的に各駅停車である。にもかかわらず、ラッシュアワー時には混雑を理由に、突如駅を飛ばすことが日常的に行われている。そして、列車に乗る段階では、それを予想しようがないのだ……。
次に、別の国で聞いた、長距離列車の中でのアナウンスをご紹介しよう。
「大雪のため、列車が遅れて大変申し訳ありません。○○駅には×分遅れで△時△分に到着予定、○○駅には×分遅れで、△時△分に到着予定です。変更があった場合には、またアナウンスいたします」
お断りしておくが、これは日本での出来事ではない。
この国は、ドイツである。当時のヨーロッパは大雪で、空、陸の交通は大混乱しており、あらゆる交通機関がいつ復旧できるかさえ、発表できない状況であった。しかし、ドイツのケルンからブレーメンに向かう長距離列車では、整然と先の見通しをアップデートしつつ乗客に知らせ、列車が運行されていたのである。
この違いはいったい何なのだろうか。明らかに日本人にとっては、ドイツの鉄道のほうが性に合う。これくらいの確実性を、鉄道に期待したくなるし、それに慣れている。そしてイギリスの鉄道のあり方は、正直、性に会わない。慣れるまでは、私もかなりイライラしたものだ。
しかし一方で、ロンドンの人たちが自分たちの鉄道のありように不満を感じているかというと、どうもそうではない。地下鉄で駅を飛ばされても「アポイントに遅れるじゃないか!」とイライラしたり、慌ててメールを打ったりする人は、見当たらないのである。