「売上高を伸ばすべきか、利益を増やすべきか」――。経営者だけでなく、会社の収益管理の一端を担う管理職や現場社員の誰もが一度は直面する、「経営の永遠のテーマ」だ。この問いに対して、「経営の神様」と称された稲盛和夫氏はどう答えたのか。(イトモス研究所所長 小倉健一)
売上高と利益
企業経営ではどちらが大事か?
企業の事業規模が大きくなることは、一般的には成功の証しとされている。だが、ちょっと待ってほしい。どれだけ成長しても利益が確保できていなければ、その企業が本当に成功しているとはいえないのではないか。
むしろ中長期的には、少しずつの成長でも利益をしっかり確保している企業の方が、利益がほとんど出ないけれども大きくなっていく企業を抜く可能性があるのではないか。そのようなことが起きる可能性は、どの程度のものだろう。
利益をしっかり出しておいた方がいいのか、ひらすらに成長を目指すべきなのか――。その答えを探るため、豪クイーンズランド工科大学ビジネススクールで経営学を教え、アントレプレナーシップ(起業家精神)分野の世界的権威の一人であるペール・ダビッドソン教授ら3人がまとめた研究結果を見てみよう。3人の論文「利益ある成長か、利益からの成長か:馬を荷車の前に置くのか?」(2008年)の内容を紹介する。
結論から言うと、利益をしっかりと出しつつ、適度な成長を遂げている企業は、大きな成功を手に入れる可能性が高く、失敗のリスクも小さいことが分かった。やはり、成長だけを追い求めるのは企業経営にとって愚策であることが分かる。
結論を聞けば当たり前のことなのかもしれないが、経営者は、利益を犠牲にした規模の拡大を進めてしまいがちだ。メディアや研究者も企業規模で「企業の格」を評価してしまう傾向にある。特殊な状況においては成長が成功の有効な指標であるケースもあり、成長が企業にとって「有害」であるということもない。
国策としても「経済成長」が大目標として掲げられていることに関連があるのかもしれない。個々の企業でも売上高が急成長していることが、メディアから称賛、表彰される傾向にある。経営学の教科書も、売上高をいかに上げるかという点、シェアを増やすかという点に多くのページが割かれている実態がある。
今回は、前述の研究の詳しい内容をお届けするとともに、「経営の神様」と称された稲盛和夫氏が「売上高か利益か」の問いに対してどのように考えていたのかをお伝えしたい。