伝統的な日本企業における
「停滞の構造」
歴史が浅い新興企業を中心に自律型組織が成功している事例は多くあるが、それが必ずしも日本の伝統的な集権型組織が自律型へ転換するための気づきや動機付けにはなりづらい。
そこで、これまで事例として解説してきたカインズにおける組織課題と改革のプロセスを、一般の企業が応用できるように汎用化を試みた。まず、伝統的な日本企業が陥りがちな負のスパイラルをまとめると、図表1の通り表現される。
言われたことはきちんとやるが、指示待ち、他者依存という「他律」の状態。外発的動機により動くため、やらされ感が蔓延している。経営や人事が「自律」の旗を振れども、かつての個が会社に従属している世界観が根強く残存している伝統的な日本企業は多い。
それでは、この状態を創っている「構造」は何か。
まず、会社側の問題がある。発想の起点がWhy(なぜ)ではなく、What(何を)になっている。権威づけされた流行りの制度・施策に興味を示し、模倣や部分最適の施策に飛びつく。それを、設計者側の言葉で落とし込み、安直で簡単な「制度」という名の過剰なルールで個人を縛ろうとする。
一方で、この「他律」の状態を会社側の問題だけで捉えるのは適切ではない。個人と組織の問題にも触れる必要がある。自分の頭で考えずに、「短絡的に答えを探そう」「答えを当てに行こう」とし、上位者から与えられた仕事に対し「受動的に遂行」する姿勢が染み付いている個人が少なくない。組織においても、上位者に権限を集中させる「集権型組織」の構造を残存させている実態もある。
このような「変わりたくても変われない」伝統的な日本企業が自律型に変容できる術を示せれば意義があると考えている。そこで、連載の後編ではここまで紹介したカインズの改革事例を抽象化し、組織改革の全体構造や作用機序を明らかにしたフレームワークを提示していきたい。
*「日本の人事部」:https://jinjibu.jp/article/detl/tonari/2825/
株式会社ブレインパッド 常務執行役員 CHRO 人事ユニット 統括ディレクター
1987年に金融分野からキャリアをスタート。1993年米国社費留学を経て、内外の投資会社でファンドマネージャー、金融法人営業、事業開発担当ディレクター等を経験。2004年に人事コンサルティング会社マーサーへ転じたのを機に、人事・経営分野へキャリアを転換。2006年に同社取締役クライアントサービス代表を経て、2013年同社取締役COOに就任。その後、2015年にライフネット生命保険株式会社へ移籍し、同社取締役副社長兼CHROに就任。2021年6月に株式会社カインズ 執行役員CHRO 兼 CAINZアカデミア学長に就任。2023年7月より現職。日本証券アナリスト協会検定会員、MBTI認定ユーザー、幕別町森林組合員。日本CHRO協会 理事、日本アンガーマネジメント協会 顧問も務める。
パーソル総合研究所 コンサルティング事業本部 ディレクター
2017年より現職にて、人事戦略策定、人事制度改革、人材開発体系構築、組織開発など多岐に渡るテーマのコンサルティングサービスを提供。それ以前は、ミスミグループ本社の人材企画・管理室の責任者や、NTTデータ経営研究所の組織・人財コンサルティング事業部門でコンサルティング業務などに従事。