──なぜ、生麺のような食感が実現できたのですか?

眞壁 一つは小麦粉の配合にあります。

 私は大学院で、粒子の特性を調べてハンドリングする粉体工学を研究していまして、修了後は富士通研究所でプリンターのトナーの研究をしていました。その知識と経験を生かして、市場にあるうどんの特性を軒並み調べて、どんなうどんが求められているのかを科学的に分析したのです。

 その結果わかったのは、日本人は、硬いうどんよりも、ソフトでしなやかでつるつるしたうどんを求めているということです。そこで、そんな食感を生み出すための小麦粉の配合を研究しました。すると、髪の毛よりも細い68ミクロンと28ミクロンの小麦粉をある割合で配合すると、乾麺でも、そうした食感を持ったうどんが作れることがわかったのです。

──そこまで科学的に緻密に生み出されていたのですね。

眞壁 さらに、うどんは水も重要なので、工場のフィルターで塩素濃度ゼロの水を作り出して用いています。ミネラル豊富な海塩を使うことで、完全無添加の安心・安全な乾麺を実現することができました。

 ちなみに、私は水の勉強をしていなかったので、眞壁屋に入社してから秋田大学大学院の博士課程に一般入学で入り直し、2年半かけて超分子化学の研究もしました。

──うどんを開発するために、そこまでされたのですね。

眞壁 さらに手作りにもこだわっています。今や手作りの秋田うどんはめっきり減ってしまいましたが、手で練った方が、グルテンが均一に並び、弾力があり伸びにくいうどんが作れます。今後も手作りを貫き通したいと考えています。

──羽後信用金庫さんからサポートを受けられているそうですね。

眞壁 前身の鳥海信用金庫時代の1972年から取引させていただいています。今もメインバンクとして、融資だけでなく仕事の相談にもよく乗っていただいています。信用金庫の長所は経営者と同じ目線を持っていること。仕事の相談をするときも本音で話ができるので、非常に心強い存在です。

──今後の抱負を教えてください。

工学博士が小麦粉のベストバランスを算出、手作りと融合し、唯一無二のうどんを開発「秋田 眞壁屋のうどん」。パスタ風など、洋食にも使われている
●株式会社眞壁屋 事業内容/うどん(乾麺、半生麺)製造販売、従業員数/14人、売上高/1億1390万円(2022年度)、所在地/秋田県横手市大屋新町堂ノ前35‐2、電話/0182‐33‐5433、URL/makabeya.la.coocan.jp

眞壁 私ごとですが、実は2020年末に大動脈解離を発症して生死の境をさまよう経験をしました。それをきっかけに、この世に生きている間に使命を果たしたいと考えるようになりました。

 その使命とは何かといえば、古くから伝わる日本の技術や文化、精神、魂を後世に残していくことです。

 長い間伝承されてきながら希少になりつつある手作りのうどんを、日本のみならずグローバルにも広げていく。そうすることで、日本の素晴らしい食文化を後世に残す使命が果たせると思うのです。

 既に香港のスーパーには18年前から置いていただいていまして、今ではレギュラー商品として定着していますが、さらにその輪を広げていきたいですね。

(取材・文/杉山直隆、「しんきん経営情報」2023年8月号掲載、協力/羽後信用金庫