組み替え直す「編集力」
つなぎ合わせが重要に

――そこにAIやブロックチェーンの技術が発展すると、また違う生き方ができるという状況になってきていると提言されています。

 デジタルやバイオの革命によって、主体が会社ではなく、個人になっている。その個人も「分人」として、完全に自分をコントロールできる時代になっているのが、ブロックチェーン、Web3の世界です。そうなると、世間では、DAO(Decentralized Autonomous Organization「自律分散型組織」)と言い出すわけですが、これがまた私は大嫌いで(笑)。私は現在は、凝り固まっていたものが、ビッグバンでいったん爆発した状況だと思っています。そこから、どうやって星座を作っていくかが大切で、それこそが最も創造的営みなのに、分散してひとつひとつが自律していても、何も始まらず、全く意味がない。

 もちろん硬直した組織では駄目で、自由に組み替えが可能な組織にしなくてはなりません。私の造語ですが、それをDACO(Decentralized Autonomous Connected Organization)と言っています。大事なのは、「Connected(コネクテッド)」の部分です。コネクティビティー――関係性をどう作るかに本質がある。今までは組織の壁で箱を作ることで、人と人との関係性を作っていましたが、今後は、たとえば、パーパスがマグネットになって、あるテーマを一緒にやりたいと思う者同士が集まるという関係性の作り方になるでしょう。

 ただ、方法論が共通でなければ思いが空振りするので、本書でアルゴリズムと言っていますが、その企業なりの価値を生み出す方法論を持っていれば、企業に人が集まってくると考えています。

 最後に、異質なものが集まることによってイノベーションが生まれるとすれば、その異質な人同士がばらばらにいるダイバーシティーだけでは意味がない。そこに包摂性(インクルージョン)がなければならない。統合する、結合する関係性の軸をどう見つけるかが非常に大事で、そこが最も創造的な仕事になってくる。その際のキーワードとなるのが、「編集」です。

ワークとは何か。どう生きるか。『桁違いの成長と深化をもたらす 10X思考』
名和高司著、定価3190円、ディスカヴァー・トゥエンティワン刊

 編集力こそがイノベーションの全てというくらいに最近は思っています。それは「和洋折衷」を持ち出すまでもなく、日本人は歴史的に編集の天才ではないか。0→1を目指すのは得意でなくても、いろんなものを組み合わせて実用化させることが非常に得意な国民で、それこそ高度成長期には、1→10、10→100に、しかも異質なものを組み合わせて作り上げるところに驚異的な力があった。そのような日本のDNAをよみがえらせたいということも、10X思考を提唱する根底にあるのです。

――イノベーションや一人ひとりの志をスケールするためには、つなぎ合わせる、みんなで集結するという部分が大切だということですね。

 そうです。一人では何もできません、関係性が大切である。そうやって、日本の明日を開いていってほしいということが本書で一貫して主張していることであり、私の志です。(了)

名和 高司(なわ たかし)

京都先端科学大学ビジネススクール教授、一橋大学ビジネススクール客員教授

東京大学法学部卒、三菱商事に約10年間勤務、ハーバード・ビジネス・スクール修士(ベーカースカラー授与)。2010年までマッキンゼー・アンド・カンパニーのディレクターとして約20年間コンサルティングに従事。デンソー、ファーストリテイリング、味の素、SOMPOホールディングスなどの社外取締役を歴任。『コンサルを超える問題解決と価値創造の全技法』『成長企業の法則』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)、『資本主義の先を予言した史上最高の経済学者 シュンペーター』(日経BP)、『稲盛と永守――京都発カリスマ経営の本質』『経営変革大全――企業を壊す100の誤解』(ともに日本経済新聞出版)、『パーパス経営――30年先の視点から現在を捉える』『企業変革の教科書』(ともに東洋経済新報社)、『学習優位の経営――日本企業はなぜ内部から変われるのか』(ダイヤモンド社)など著書多数。