まず(1)退職金というお金の持つ意味、そして(2)極端な課税の回避である。

 退職金というもののルーツは、江戸時代の“のれん分け”にある。長年働いた奉公人が独立する際に、同じ屋号を名乗ることを許し、いくばくかの資金を援助するというもので、言わば長年の勤務に対する功労報酬的な意味合いだ。これは言わば「ご褒美」という性格に近いものであるため、税金をかけるのは酷だという発想がそもそも前提としてあったように思われる。

 ただ、時代とともに退職金の性格は変わってきて、給与の後払いそして老後の生活をまかなうための手段として考えられるようになってきた。

 形は違えども給与なのであるから、まったく税金をかけないというわけにはいかない。とはいえ、所得税は累進課税の形であるため、その金額が多ければ多いほど税率も高くなる。

 仮に退職金が功労報酬的な意味合いであったとしても、まとまったお金を支給すればそこに高い税率がかけられてしまうため、従業員にとっては不利になってしまう。また、給与の後払いであったとしても老後生活のための資金なのであるから、それまでの長年の給与を一度に払うことで多額の税金が徴収されるというのも理不尽である。

 つまり、「極端に高い税率を回避する」という点に税制優遇の意味がある。

 したがって、今回の制度改正もこうした退職金に対する優遇税制を全部なくしてしまおうということではない。税制優遇を受けるための条件を見直そうということだ。