量子コンピューターPhoto:picture alliance/gettyimages

デロイト トーマツ コンサルティングが量子コンピュータービジネスの強化に乗り出したことがダイヤモンド編集部の取材で分かった。8月1日付で、量子ビジネスを含む研究開発組織の量子部門のトップに、住友商事出身の量子ビジネス業界の“エース”が就任した。将来の経済効果は100兆円超ともいわれ、急成長が見込まれる量子ビジネスを強化する。(ダイヤモンド編集部 大矢博之)

デロイトの量子部門のトップに
元住友商事の業界エースが就任

 コンサル“ビッグ4”の一角が、量子コンピュータービジネスの強化に乗り出した。

 デロイト トーマツ コンサルティングが量子コンピュータービジネスを含む研究開発組織を6月に立ち上げ、量子部門のトップに、住友商事出身の量子ビジネス業界の“エース”が8月1日付で就任したことがダイヤモンド編集部の取材で分かった。

「次世代の計算機」として期待を集める量子コンピューターの開発競争は世界各地で加速している。日本でも理化学研究所などが開発した量子コンピューターの「国産初号機」が3月から本格稼働を始めた。

 米コンサル大手マッキンゼー・アンド・カンパニーが4月に公表したレポートによれば、量子コンピューターをはじめとする量子関連技術の市場規模は2040年に1060億ドル(約15兆円)まで成長すると予測されている。また、量子コンピューティングによる経済効果は、2035年には6200億~1兆2700億ドル(約87兆~178兆円)に達すると見込まれている。

 日本も国を挙げて量子技術の産業応用を目指している。政府が4月にまとめた「量子未来産業創出戦略」では、2030年の目標として、国内の量子技術の利用者を1000万人にすることや、量子技術による生産額を50兆円規模へと成長させることを掲げる。

 今後急激な成長が見込まれる量子コンピュータービジネスの領域を強化するため、今回、デロイトの量子部門のトップに就任したのは、元住友商事デジタル戦略推進部テクノロジーディレクターの寺部雅能氏だ。住友商事の量子技術による社会変革を目指す「QX(量子トランスフォーメーション)プロジェクト」の中核メンバーだった。

 寺部氏は自動車部品大手デンソーの元技術者で、カナダD-Waveシステムズの量子アニーリングマシンを使い、工場内で部品などを運ぶ無人搬送車の効率化に取り組んだことでも知られる。総合商社でいち早く量子ビジネスに取り組んでいた住友商事に20年に転じた後は、イスラエルの量子ソフトウエアベンチャー、クラシックやカナダの量子コンピューターベンチャー、ノード・クオンティーク、冷却原子方式の米量子技術ベンチャー、コールドクアンタなど5社への出資に携わった。

 また寺部氏は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が今春公募した「量子・AIハイブリッド技術のサイバー・フィジカル開発事業」の採択審査委員長を務め、量子コンピューター業界の“目利き役”として知られる。

「AIにはできない、“その先”をやらないとコンサルファームは生きていけない。量子ビジネスの世界で、世の中に先んじることができる人材を必要としている」

 デロイト側は寺部氏に対し、こう危機感を説明したという。デロイトは業界の大物と共に、今後どう量子ビジネスを展開していくのか。