FRBパウエル議長Photo:AP/AFLO

米国の6月消費者物価上昇率は前年同月比3.0%となった。一方、景気指標は堅調さを示すものが多く、FRB(米連邦準備制度理事会)が目指す景気後退なきインフレ退治に近づいたかにみえる。しかし、金融引き締め効果はこれから表れる。成否の見極めは時期尚早である。(みずほリサーチ&テクノロジーズ調査部プリンシパル 小野 亮)

景気後退なきインフレ退治に
自信を見せるパウエルFRB議長

「まだ『楽観的』という言葉を使う段階ではないと思う。言い換えるなら、『道筋が見えている』という表現が適切だろう。これまでのところ、労働市場に深刻なコストが発生することなく、ディスインフレの初期段階が見られるようになった。本当に良いことだ」

 7月のFOMC(米連邦公開市場委員会)後の記者会見で、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長はこのように述べ、足元の雇用動向と物価動向の現状に対する安堵の姿勢を示した。FOMCは事前予想通り0.25%の利上げを行い、政策金利は5.25~5.0%と、2001年1月以来の高さとなったが、最大の注目点はこのパウエル議長発言であった。

 パウエル議長は以前から自分は「景気後退なきインフレ沈静化」という見通しを持っていることを公言し、景気後退入りを予想する市場参加者(含む筆者)やFRBスタッフらとの見解の違いが明らかだった。今回の記者会見でパウエル議長は、軍配が自分に上がっていることを明らかにした。

「今年後半から、米国経済では明らかな減速が始まるとスタッフは予測している。しかし、最近の経済のレジリエンス(抵抗力)を考慮し、彼らはもはや景気後退を予測していない」

 前FRB副議長で、今年1月からバイデン政権内で経済政策の立案・調整役を務めるブレイナードNEC(国家経済会議)委員長も、インフレとの戦いに早くも「勝利宣言」を出している。7月12日に発表された6月CPI(消費者物価指数)で、ヘッドラインが前年比3.0%と、2021年3月以来の水準まで低下したことを受け、ブレイナード氏は次のように述べた。

「経済は、大幅な雇用破壊がなければインフレ率は下がらないという予測を覆している」

 ブレイナード氏が勝利宣言を出すのも無理はない。共和党サイドからはバイデン政権の政策がインフレの原因(バイデンフレーション)と批判され続けてきた。24年大統領選での再選を目指すバイデン大統領にとって、インフレ沈静化が急務なのである。