スキマ時間にもサクサク哲学を学びたいときは、『哲学用語図鑑』(田中正人/著 プレジデント社)が便利です。この本はとにかくイラストの図解がとてもわかりやすい。
無意識もルサンチマンも、階級闘争も唯物論も、現代哲学の主流のひとつである現象学も、哲学用語はこの図鑑で調べればイラストの図解でスーッと頭に入ってきます。
私は東大大学院時代、現象学を研究していましたので、フッサールが創始した現象学の中心概念「現象学的還元」と「エポケー(判断中止)」についても学びました。けれども、フッサールの理解には時間がかかりました。一般の人がフッサールの原著を読むのは大変です。でも、『哲学用語図鑑』で調べてみると、「現象学的還元」ってそういうことなのか! 「エポケー」って、判断をいったん宙づりにして括弧の中に入れてしまうようなものなのか! と、とりあえず理解できるのです。
昔、哲学を勉強しはじめた頃にこの本があったら、もっと早くスムーズに理解できただろうなと思います。
哲学を学ぶときのポイントは、哲学用語を少しでも多く仕入れることです。ざっくりとわかっている言葉をたくさん増やすと、哲学が身近になっていきます。 そして、哲学家たちの思想や概念を、現代を生きる自分の人生にどうアレンジして引き寄せればいいか考えてみる。そこまで考えてはじめて、哲学を学ぶ意味が生まれるのです。
哲学を自分事として考えるコツは、学んだ内容を要約してみることです。たとえば私が研究していた現象学は、「物事を決めつけずに現象を丁寧に見る学問」と言えば誰でもわかりますよね。あえて言うなら、風景画を描く画家のようなものです。
自分の目の前に現れる象(かたち)の色、光、影など知覚したものを、そのまま絵に描いていく。そのようなことが、絵画でなくても自分にできるかどうか。現象学の概念を技として身につけて自分で使いこなすことができるようになれば、それが自分の人生哲学になります。
自分が苦手なことを哲学で克服して人生に活用することもできます。人との対話が苦手な人は、ヘーゲルの「弁証法」の基本概念「アウフヘーベン」を学ぶといいでしょう。これはダイアローグ、対話と同じ意味なので、弁証法とは対話法のことなのです。
ヘーゲルはこの「アウフヘーベン」を、「テーゼ(正)」と「アンチテーゼ(反)」の2つの対立し合う関係によって、より高度で新しいアイデアを生み出す状態へと高めていく対話法と定義づけしました。