福島を訪れた後、自分で取材する機会がなかなかなかったが、2017年に刑務所取材を再開。ほぼ10年ぶりに福島刑務支所を再訪し、その他の女性刑務所も訪れた。

 そこでわかったことは、高齢受刑者の割合は増え、刑務所の福祉施設化はますます進んでいるということだった。

 刑務所のイメージが、世間一般がもつものと随分様変わりしていることも実感した。一般に、「刑務所」というと、男性、しかも暴力団ややくざなど、屈強で極悪非道な男性が服役しているイメージが強いのではないかと思う。統計を見ると、今から約30年前、1990年には、新規に刑務所に入る受刑者の約4人に1人(24.7%)が暴力団関係者だった。

 それがどうだろう、今ではその割合は約25人に1人(4.2%)にまで減っている。反対にこの30年間で割合が増えたのが女性で、受刑者全体の1割を占め、しかも65歳以上の女性が顕著に増えている。男女あわせた65歳以上高齢者の割合は約13%と、約30年前の10倍に増えた。さらに、受刑者全体(男女計)の約2割は知的な障害をもつ可能性が高いともいわれている。「極悪非道な大犯罪人」とはだいぶ異なる印象のデータが並んでいるのが現状だ。

家族を焼死させた受刑者も
認知症で罪の自覚なし

 高齢の女性受刑者が増えるということは、認知症の介護を必要とする受刑者が増えることも意味する。認知症は加齢とともに有病率が高まるからだ。認知症の受刑者をどう処遇するかは、各刑務所にとって深刻な問題になっている。

 法務省では2018年度から、全国の主要8カ所の刑務所に入る60歳以上の受刑者に認知症の検査を義務づけた。受刑者に対し、記憶力や計算能力などを見る認知機能検査を実施し、認知症の疑いがある場合は医師の診察につなげることにした。診断後、「認知症」と診断された受刑者については、刑務作業の軽減や、症状の改善指導などを検討する。

 2019年度からは、栃木、和歌山の2つの女性刑務所が加わった。法務省によると、2019年度の調査では、対象者908人(60歳以上の受刑者のほか、認知症の疑いのある60歳未満の受刑者も含む)中、126人が「認知症の傾向あり」(約14%)だった。2020年度においては、対象者930人に検査を実施し、うち、医師による診察を受けた者が195人(約21%)、認知症の確定診断がされた者が54人(約6%)だった。

 栃木刑務所では、2019年度以前から、認知症が疑われる受刑者については「長谷川式スケール(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)」を使った検査をしている。「長谷川式スケール」は、診断の「物差し」として、日本で広く使われている認知機能検査だ。九つの質問項目から成り、30点満点中、20点以下だと認知症が疑われる。