職場で困っている人を見かけても、「おせっかいだったらどうしよう…」と躊躇したり、「たぶん大丈夫だろう…!」と自分に言い訳したり……。
気づかいをするときには、つい「心の壁」が現れてしまい、なかなか一歩が踏み出せないことが、あなたにもあるのではないでしょうか?
この連載では、「顧客ロイヤルティ(お客さまとの信頼関係づくり)」をベースに、ビジネスセミナーへの登壇やコミュニケーションスキルの研修講師を通して、全国200社・2万人以上のビジネスパーソンに向けて教えてきた『気づかいの壁』の著者、川原礼子さんが、「気がつくだけの人」で終わらず、「気がきく人」に変われる、とっておきのコツをご紹介します。

めちゃくちゃな苦情にもスマートに対処できる「たった1つのコツ」Photo: Adobe Stock

問題を2つに分けましょう

 お客さまからの苦情への対応は、なかなか難しいですよね。

 もし、あなたの部下が「上を出せ」と言われた際に、上司であるあなたがいかに責任者としてクロージングに導くか。

 今回は、そのノウハウをお伝えします。

 まずやるべきなのは、「相手が抱える2つの問題を解決する」という方法です。

 苦言を呈するお客さまは、ただ文句を言っているわけではなく、「現実の問題」と「感情の問題」を抱えている、と捉えましょう。

 1つ目の「現実の問題」というのは、「実際に起きている問題のこと」です。

 たとえば、購入したばかりのバッグの取っ手が壊れてしまって、そのことで苦情が来たとしましょう。

 その場合、「現実の問題」は、「取っ手が壊れた」ということになります。

 ここは誰でもわかることだと思います。

 そして、2つ目の「感情の問題」というのが、「『現実の問題』を取り巻く相手の気持ちのこと」です。

 たとえば、そのバッグが、大事な商談やデートに向かう途中で壊れたとしたら、「焦った」「困った」という感情が想像できます。

 ここで相手のことを想像することが試されるのです。

対応の「順番」がカギ

 さて、苦情対応でもっともやりがちな失敗が、「現実の問題」だけに対応してしまうというやり方です。

「感情の問題」のことをまったく考えず、

「申し訳ございませんでした。では、取っ手を修理しますので現物を送っていただけますか。」

 と、「現実の問題」の解決に急いでしまう対応です。

 これをすると、「どれだけ迷惑をかけたと思っているのか!」と、さらに怒りに火を注ぐことになります。

 多くの場合、ここで、「お前じゃダメだ。上を出せ!」につながるのです。

 きちんと苦情対応ができる人は、「感情の問題」を先に解決するということをやっています。

「出先で壊れて、お困りになったのではないでしょうか?」
「大切な場で、たいへんご迷惑をおかけしました。申し訳ございません」

 というように、「現実の問題」を解決する前に、「感情の問題」に対して丁寧にお詫びするようにしてください。

 すると、「怒っている気持ちを理解してくれた」という実感がわき、やがて相手の心の壁が少しずつ低くなっていきます

 そして相手も聞く耳を持つことができ、次の「現実の問題」の対応や提案へと入っていきやすくなるのです。

川原礼子(かわはら・れいこ)
株式会社シーストーリーズ 代表取締役。
元・株式会社リクルートCS推進室教育チームリーダー。
高校卒業後、カリフォルニア州College of Marinに留学。その後、米国で永住権を取得し、カリフォルニア州バークレー・コンコードで寿司店の女将を8年経験。
2005年、株式会社リクルート入社。CS推進室でクレーム対応を中心に電話・メール対応、責任者対応を経験後、教育チームリーダーを歴任。年間100回を超える社員研修および取引先向けの研修・セミナー登壇を経験後独立。株式会社シーストーリーズ(C-Stories)を設立し、クチコミとご紹介だけで情報サービス会社・旅行会社などと年間契約を結ぶほか、食品会社・教育サービス会社・IT企業・旅館など、多業種にわたるリピーター企業を中心に“関係性構築”を目的とした顧客コミュニケーション指導およびリーダー・社内トレーナーの育成に従事。コンサルタント・講師として活動中。『気づかいの壁』(ダイヤモンド社)が初の著書となる。