「会社に対する不満が蔓延している」、「なぜか人が辞めていく」、「社員にモチベーションがない」など、具体的な問題があるわけではないけれどなぜだかモヤモヤする職場になっていないだろうか。そんな悩みにおすすめなのが、近年話題の「組織開発」というアプローチだ。組織開発では、「対話」を通してメンバー間の「関係の質」を向上させていく。そんな組織開発のはじめ方を成功事例とともに紹介したのが、『いちばんやさしい「組織開発」のはじめ方』(中村和彦監修・解説、早瀬信、高橋妙子、瀬山暁夫著)だ。本記事では、発売後即重版となった話題書『いちばんやさしい「組織開発」のはじめ方』の出版を記念して、組織開発の成功事例から見たはじめ方のポイントをおさらいする。

「やる気のない職場」を激変させる3つのポイント「(1)不満を放置しない」「(2)“良い組織”の物差しをつくる」、あともう一つは?Photo: Adobe Stock

組織開発の「はじめ方」のポイント3つとは?

高橋妙子(以下、高橋):成功事例を踏まえると、特に組織開発の「はじめ方」のポイントは、大きく3点に集約できるのではないでしょうか。

  • ・モヤモヤしたら、すぐ始めよう
  • ・「なぜやるの?」を大切にする
  • ・焦らない、諦めない

まずはできるところから始める。「集まる場所」をつくってみる

瀬山暁夫(以下、瀬山):成功した事例は、程度の差はあれど、いずれもこの3点を実行していますよね。

 まず、「モヤモヤしたら、すぐ始めよう」というのは「手法にとらわれるな」ということでもあります。

 手法をマスターすることや、ファシリテーションスキルを高めるなど、型を整えることはもちろん大切です。

 しかし、それにばかり時間を取られてしまうのは本末転倒でしょう。モヤモヤしたら、すぐ始める。まずは何より、はじめの一歩を踏み出す勇気が大事です。

早瀬信(以下、早瀬):大企業の事例では、上から方針が下されるのではなく、気づいた人が上に掛け合って専門部署をつくり、モチベーションの高そうな部門やチームから徐々に賛同者の輪を広げていくという動き方もあります。

高橋:それが自然ですし、地道だけど無理がないはじめ方ですよね。社員の誕生会から始めた事例も印象に残っています。無理がありませんし、組織開発を始めますよ、という押し付け感もありません

 ここからわかるのは、組織開発を知っていなくても、誰でも「はじめ」のきっかけをつくることができる、ということですね。

「良い組織」についての物差しをつくる

瀬山:目標を明確にするという点で、「なぜやるの?」を大切にするのは、組織開発の出発点としてとても重要になりますね。

早瀬:「良い組織をつくりましょう」というのが目的ですが、それをもっとブレイクダウンし、「良い」の物差しをつくることが大切です。そうしないと、どうなったら良くなったと言えるのかわかりませんよね。

高橋組織開発では、差異があるのは良いことだと認識されています。そもそも組織開発の基礎は、「差異に注目する」ということです。

 メンバー間で「良い」の解釈を話し合う際には、現状の「良くない組織」や理想の「良い組織」観に対する個別の感じ方を話し合うと、お互いの組織に対するまなざしの差異がはっきりしてくるでしょう。

 そこで初めて、「じゃあ、私たちの『良い』の物差しって何だろう」、という話し合いが始められるのだと思います。

最初に時間を取る、そして焦らない。変化がなくても「諦めない」

早瀬:目的を共有することは大切ですが、変化に対応する必要もあります。組織を取り巻く環境は常に変化するのが大前提です。内外の状況変化を受けて組織のコンディションも変わりますから、臨機応変な対応が必要です。

「焦らない・諦めない」というのは、それも踏まえて時間をかける覚悟をしよう、ということです。

瀬山:モヤモヤの真因を見つけることも、それをどうやって解決するかも、対話によって進めていくことになりますから、当然、時間はかかりますよね。

高橋:組織開発は、最初に時間を取るほうが、後半に早く成果が出ます。メンバーが持っているポテンシャルや気持ち、やりたいこと、できることなどを聞き合ったり理解し合ったりしてから始めると、ゴールまで走り切ることができます。

 そうでないケースでは、途中で崩壊し、最初のプロセスに戻ってくることが多いです。「最初から、私はこう思ってたんだよね」「それ聞いてなかった」などと言い出す人が出てくる。

 結局、最初のプロセスに戻って、みんなの当初の気持ちを聞き直したり、モヤモヤを洗い出したりするという時間のかかる手戻りが起こります。なので、最初に時間をかけることが大切です。決して焦らないでほしいと思います。

 ただ、最近は状況の変化が大きいので、最初のプロセスからやり直すこともあるかと思います。そのような場合は諦めないことです。基本的に組織が変化する際には、成長痛のようなつらい面もあるものです。

早瀬:特に責任者の方は、なかなか変化が起きないと焦ってしまいますよね。「時間」は組織のリソースのなかで一番貴重なものなので、投資対効果としてどうなのか、という話になってしまう。だけど、そこで得られる組織の変化はお金で買えないくらいとても貴重なものだと合意できると、前に進むことができます。

高橋:組織開発は最初に時間をかければかけるほど、後半が早くなります。そこで起きる変革は、後世の何十年にもわたり大変な影響力があり、未来を変えるほどのパワーがあります。

 一人ひとりを尊重して対話を進めるなかで、組織の新たな価値観もすり合わされていきます。新たな価値観をじっくりと共有したメンバーには、あうんの呼吸が生まれます。

 最初は時間がかかるかもしれないけれど、価値観を共有したチームは走り出すと早い。多少のつまずきも支え合うので立ち直りも早いのです。

(本原稿は、『いちばんやさしい「組織開発」のはじめ方』の内容を抜粋・編集したものです)