北陸や首都圏を中心にカレーチェーン店「ゴーゴーカレー」を展開するゴーゴーカレーグループ。2003年に創業し、国内外に約100店舗を展開中です。創業から20年を経て、23年1月に本社を東京から金沢市に移転、さらに同年3月には創業者の宮森宏和氏が代表権のない取締役会長となり、後任に管理本部付だった西畑誠(通称・ダンジ)氏が就任しました。IT企業での経験が豊富な西畑社長を軸に、ゴーゴーカレーでどのようにDXが進められ、どんな成果が出ているのか、また将来的な目標をどのように設定されているのか? ダイヤモンド社主催オンライン勉強会「マーケリアルサロン」(ファシリテーター:山口義宏・インサイトフォース取締役)のトークイベント(23年8月7日開催)に登壇した西畑社長のお話をダイジェストで紹介します。

日本食ブームの海外はブルーオーシャン

――西畑社長はテック企業でのご経験が長いですよね。

金沢カレーを世界へ! ゴーゴーカレーがめざすフードテック×グローバル化西畑男児(ニシハタ・ダンジ)
株式会社ゴーゴーカレーグループCEO兼代表取締役社長
1973年北九州市生まれ。米国でMBA(経営学修士)取得後に帰国し、2001年からヤフー、アップル、グーグル、メルカリと大手IT企業の成長期に参画。21年に米フードデリバリー最大手ドアダッシュ、その後同社が買収したウォルトで日本の経営陣としてビジネスを拡大。23年1月にゴーゴーカレー入社、3月社長就任。
*「ダンジ」というのは、学生時代に「九州男児」にちなんで付けられたニックネーム。テック業界では「西畑さん」より「ダンジさん」のほうが通じるとか。

日本の大学を卒業後、ビジネススクールに進学して米国シアトルに行ったのですが、ちょうどWindows95が出たばかりでインターネットが広がり始めたころでした。工業化学科でケミカルを勉強したはずが、これは面白そうだ!とネット業界に進むことに。帰国後、たまたま見たヤフーオークションが面白くて、2001年にヤフーに入社しました。その後、英語を使う仕事に就きたくて2006年にアップルに転職、続いて2010年にグーグルに移ってビジネス開発を行っていました。そのあと18年にメルカリへ移り、米フードデリバリー最大手のドアダッシュが日本でサービスを開始するからと声をかけてもらって21年に入社しました。その後、ドアダッシュがウォルトを買収し、日本の事業を引き継いだウォルト・ジャパンで経営陣として事業拡大を進めました。

――ゴーゴーカレーへは、どんな経緯で入社されたのですか?

ゴーゴーカレー創業者の宮森会長とは、17~18年前にたまたま行った忘年会で初めて会いました。彼が創業してまだ1~2年目のころです。当時から「このゴーゴーカレーをニューヨークに絶対オープンさせるんだ。松井秀喜選手がヤンキースにいるから」と言っていたんです。内心「そんなことができるんだろうか…」と半信半疑で聞いていましたが、本当に数年後にはオープンしていたので驚きましたね。彼も、グーグルのような世界的なテック企業が目覚ましい成長を遂げていくのを見て、その働き方やカルチャーなどに興味があったようで私に聞いてきて、友人として相談する仲になりました。十数年後に、自分がゴーゴーカレーの社長になるとはまったく思っていませんでしたけど(笑)。

――会長が松井選手のファンだから「ゴーゴー」(松井選手の背番号「55」)カレーなんですよね。黄色とゴリラのマークが強烈に印象に残ります。

そうです。本当はゴジラ(松井選手の愛称)のマークにしたかったみたいですが、ゴジラは権利関係などで難しいから一文字変えて「ゴリラ」にしたそうです。

金沢カレーを世界へ! ゴーゴーカレーがめざすフードテック×グローバル化黄色い看板にゴリラが目印。 Photo: Adobe Stock

――西畑さんがゴーゴーカレーの経営に参画する話はいつごろ出たのですか。

2022年12月中旬に「ダンジさんに社長になってもらったらどう変わるかな」と誘われたのがきっかけです。年が明けて23年1月に入社し、3月に代表取締役に就任しました。会長と私は今年50歳になるんですけど、屋号のゴーゴーにちなんで「55歳になるまでに世界一になりたい」と話しています。

――日本ではカレーは大人気でメジャーなメニューですが、海外ではどうなんですか?

海外ではラーメンや寿司をはじめ、日本食ブームが起こっています。日本のカレーライスもすでにかなり人気が高いし、日本に来たら食べたいと思っている方が多い。じゃあこの追い風のタイミングでどう世界に本格展開していくか、ですよね。現時点で、米国9店舗、昨年12月にインドネシアで1号店を出店し、その後順調に拡大して4店舗を運営しています。さらに欧州や他の国や地域にも進出を計画中です。

――日本食のなかでもカレーが大人気だとすると、競合もひしめき合っているのでは?

大手のカレーチェーンであるCoCo壱番屋さんは世界12の国と地域に進出されていますが、まだまだ全体からみれば日本市場に軸足を置いておられるし、海外市場はブルーオーシャンだと考えています。

カレー事業はテック事業に似ている…?

――進出エリアの風習・好みによって味や素材を変えるなどされているのですか。

文化・習慣によって食べられないものや、国・エリアごとに輸出できないものはありますから、たとえばイスラム教の方たちの多い地域では具材を豚肉ではなく鳥肉にするなど、変えています。ただ、ゴーゴーカレーはもともと濃い目の味付けなので、肉の違いで大きく味の印象が変わるのかというと、そこまで違わないと思います。
その国ごとのレギュレーションや風習は貿易会社や現地パートナーと組んで相談しながら、どういったものを流通できるのか、通関できるのか、確認しながら進めています。

――各地で現地生産するのですか? あるいは日本で作ったものを輸出するのですか?

海外進出した直後は店舗数も少ないので、現地で作ると割に合わないため、日本の工場で作ったものを送っています。たとえば先ほど挙げた進出先の中で、インドネシアは今はまだ日本から送っています。これから店舗数が増えていけば、現地にOEM工場を作っていきます。インドネシアではハラール認証(イスラム法の一定の基準に則って生産・提供されたものであると証明し、ムスリムが安心して使用できる目印)を受ける必要もあるでしょう。

――カレーを作るプロセスというのは、非常にザックリ言えば「ごはんに、ルゥをかける」というシンプルなオペレーションなので、規模を拡大しやすそうなイメージはあります。

おっしゃるとおり、お寿司やラーメンのように店舗に必須の職人さんを採用したり育成したりということは必要ないので、スケーラビリティはある。この点はテック事業と似ています。まさにフードテックであり、グローバルに拡大できると思いました。

画期的なアプリを開発中

――外食産業は労働集約型で標準化やテクノロジー活用が遅れやすい印象ですが、どういうふうにDXを進めていくのでしょうか。

まず、いろいろな方が使いやすいプラットフォームでなければいけない。UI(ユーザーインターフェース)がすばらしく、誰でも理解できて簡単に使えるアプリじゃないといけません。
あとは、アプリを開発するだけで満足せず、そのあとのCRM(顧客関係管理)やデータを使ったマーケティングまで考えて開発していかなければいけないと思っています。
ゴーゴーカレーで開発してテスト中なのが、店内外で使えるモバイルアプリ。これを開発する際に気をつけたのは、CRMまで考えたプラットフォームを作れる開発会社と組むことです。その一例が、券売機で券を買うとき、誰が買ったか紐づけられる仕組み。これはかなり画期的だと思います。

――リアル店舗で購入してもウェブで注文しても単一IDで紐づくからLTV(顧客生涯価値)がわかるようになる、というわけですね。外食事業で重要なリピーターも特定できるようになる。

そうなんです。CRMに生かしたいと思ってます。たとえばコアファンを特定して、プッシュ通知もできるようになります。

――DX面でベンチマークされている企業はありますか?

マクドナルドさんです。マクドナルドさんのアプリは素晴らしい。イートインもテイクアウトもデリバリーもできるし、わかりやすい。あんな便利なアプリなら、みなさん入れたくなりますよね。

――今後、組織や採用面で強化したいのは?

これまでのゴーゴーカレーの「フード」事業に、これから私が「テック」と「グローバル」の要素を掛け合わせようとしているところなので、グローバルテック企業出身の方は採用したいですね。彼らは、海外とプロジェクトを進める働き方を知っているから。クイックに動けて、ツールを使いこなせて、どこからでも仕事ができる方、というのかな。

ゴーゴーカレーグループ全体についても、私が入社して一番に大きく変えたのは仕事のやり方です。100%リモートOKにして、東京オフィスも縮小しました。そのほか、今までは全社集会「オールハンズ」など、店舗の社員でも会社に来なければいけない行事がいろいろあったのですが、すべてリアル開催はやめて、デジタル化しました。固定費を下げつつ、リモート勤務に必要なスマホのSIM代やWi-fi費用、ホームオフィスを整えるための補助などは支給しています。

――どの業界かではなく「グローバル展開に参画したい、チャレンジしたい」という方はいるでしょうから、「すでにグローバルに進出済みのベンチャー」という点が伝われば、たくさん求職者が来そうです。

そうだと嬉しいな。海外事業を強化していて採用も積極的に進めているので、興味のある方はぜひ応募してください。