これが遅いかどうかの判断は個々によるが、外務省のリスクレベルに基づいた行動では退避が遅れることも十分にあり得る。筆者は今回の件を受け、企業に対して外務省情報を十分に把握するとともに、企業自らが情報収集、分析、共有を徹底し、企業自身で一歩早い危機管理に努めるべきだと提言した。
イスラエル以外の日本企業に
リスクが拡大する可能性
また、今後の情勢を踏まえれば、イスラエル以外の中東諸国に進出する日本企業も対岸の火事ではない。
ハマスは長年イランから支援を受けているが、そのイランとイスラエルとは長年の犬猿の仲だ。今回の攻撃ではイランは関与を否定しているが、イスラエル軍がガザ地区に地上侵攻すれば、中東各地にある親イランの武装勢力が反イスラエル闘争を激化させる可能性がある。
たとえば、イエメンの武装組織フーシ派やイラクの民兵組織バドル旅団などは、イスラエルとハマスの戦闘で、米国がイスラエルを支援するため介入すれば、米国も標的になると警告しており、そうなればイエメンやイラクにある米国権益への攻撃が増えることが考えられる。
中東には、レバノンのヒズボラ、イラクのカタイブ・ヒズボラ(Kataib Hizballah)やカタイブ・サイード・アル・シュハダ(Kataib Sayyid al-Shuhada)、バーレーンのアル・アシュタル旅団(Al Ashtar brigades)などの親イラングループが存在し、今日の軍事衝突が中東全体に影響を拡大させることが懸念される。
中東各国にある日本権益が、直接の標的になるわけではない。しかし、紛争の激化と長期化により、中東各国(もっと広くは欧米諸国も含め)にあるイスラエル権益やユダヤ教権益、具体的にはイスラエル大使館やイスラエル企業、シナゴーグ(ユダヤ教寺院)などを狙ったテロや暴力が発生するリスクがあることから、各地に在留する駐在員はそういった場所には近づかない、長居しないといった意識が強く求められる。
また、今後、欧米とイスラエルの結束が強まれば、欧米権益にも同様のリスクが考えられよう。企業としても、そういった注意喚起を強化していく必要がある。
(オオコシセキュリティコンサルタンツ アドバイザー/清和大学講師〈非常勤〉 和田大樹)