メルセデスらしさを受け継ぐスムーズな走り
試乗車は「450」だった。アクセルペダルにそっと力を込めて走り出すとスムーズに加速していく。BEVの中には意図的に鋭く加速するような味つけをしたモデルも存在するが、メルセデスは内燃エンジン車の時代からそうした演出はしないことで知られており、電気自動車にもそれは受けつがれている。
車両重量はおよそ2.9トン。さすがに軽快とはいえないもののバッテリーを床下に搭載しているゆえの低重心で、可変ダンパーとエアサスペンションを組み合わせたAIRMATICを標準装備しており、安定した姿勢でコーナーを旋回していく。そして最大10°のリアアクスルステアリングが、高速時の姿勢制御とともに街乗りでの取り回しにも大きく寄与する。最小回転半径は5.1mとGLS比で0.7mも短縮しているため、全長5m超のボディサイズであることが気にならない。Uターンが必要な場面や駐車の際などにも、かなりの恩恵を感じる。ただし10°切れるとなると、縁石ぎりぎりに寄せていて据え切りするような場面で気づかないままホイールを擦ってしまうケースもあるというから、そのあたりは要注意だ。
ドライブモードの標準設定はコンフォートで、スポーツやECO、Individualなどが選択可能。このEQS SUVにはオフロードモードも用意されている。今回の試乗では試せなかったが、アクセルペダルの特性曲線が他のモードに比べて全体にフラットなかたちとなり、また時速60km/hまでは車高を25mmアップすることができるという。
そして回生ブレーキは、ステアリングに備わるシフトパドルを使って、減速度を3段階(D+、D、D-)で設定が可能で、最強のD-にしておけばワンペダルフィーリングも味わえる。また、「D Auto」モードにしておくと、最も効率的な運転スタイルとなるように減速の強弱を自動で調整し、例えば先行車を検知すると、車間距離を調整しつつ先行車が停車に至るまで可能な限り追従してくれる。個人的にはこのモードが使いやすかった。
現時点の日本において、BEVはもちろん万人向けの商品とはいえない。しかし、GLSを選ぶことができるような人にとっては、EQS SUVは一考の価値があるはずだ。メルセデスとして、いまBEVに必要と考えうるすべてを凝縮した1台といえるかもしれない。
文=藤野太一 写真=郡大二郎、メルセデス・ベンツ日本 編集=iconic