コロナ下でリモートワークが普及し人類史上のテキストコミュニケーション全盛期を迎え、「書く手間をいかに減らすか」は多くの人にとっての課題になりました。親しい相手と雑談を楽しむならばいくら続いてもいいかもしれませんが、業務メールは、失礼にならないようにしつつも効率的に進めたいものです。
国立国語研究所の教授が「雑な文章」を「ていねいな文章」へ書き換える方法をbefore→after形式で教える新刊『ていねいな文章大全』から、「印象を落とさずに負担を減らすメール」のポイントを紹介します。(構成・撮影/編集部・今野良介)
メール負担の公式
業務上、メール、あるいはチャットツールなど、それに類似するシステムで業務上のやりとりをする方は多いでしょう。
そこで問題になるのが、メールなどを書く手間です。
一般に、業務メールは無駄を省くために短いほうがよいとされますが、自分が短く書くと、相手が長く書かなければいけなくなることもあり、1通のメールの長さだけを議論しても実のあるものにはなりません。
たとえ1通のメールが短くても、それが何往復もすればかえって負担が大きくなるのです。
そこでメールを書くときは、次のようなメール負担の公式、
を考えておくとよいでしょう。
メールは会話と同じキャッチボールですから、相手に投げて終わりというものではなく、相手から返ってくることも計算して投げることが必要です。そのためには、自分の書いたメールにたいして相手の返信のパターンを予測して、相手が返信しやすいような文面で書くことが大事です。
これさえ心がけておけば、無駄なメールの往復がなくなり、印象もよく、負担感も少ないメールのやりとりが可能になるはずです。
将棋とメールの共通点
教室での教師と学生のやりとりを研究する「教室談話」の研究において、IRE/IRFというパターンがよく用いられます。
→学習者の応答(Response)
→評価/フィードバック(Evaluation/Feedback)
という一往復半のやりとりを一つの単位として考えるわけです。
「英語で雪は何と言いますか」⇒「ええと、snowですか」⇒「正解です。よくできました」のようなやりとりです。
「英語で雪は何と言いますか」⇒「雪は冷たいからiceですか」⇒「残念。iceは氷で、正解はsnowです」のようなやりとりも同じです。
メールならば、「お願いします」⇒「承知しました」⇒「ありがとうございます」のようなやりとりがIRE/IRFになります。
将棋の世界では「こう指す」⇒「そう行く」⇒「ならば、こう打つ」のような「三手の読み」が基本になり、これができると、将棋が強くなると言われます。
メールでもこの「三手の読み」が基本であり、このパターンを事前にイメージしてメールを書けば、トータルで互いに快適なメールのやりとりができるでしょう。
選択肢を設ける
相手からの返信を明確なものにし、メールの往復を少なくするためには、漠然とした聞き方は避け、選択肢を示したほうが効率的です。
来週の朝のミーティング、30分程度を予定していますが、いつがよろしいですか。
このようにすると、メールを受け取った側がスケジュールの候補を示すことになり、メールの往復回数が増えるだけでなく、先方に候補を示す手間をかけさせ、それだけスケジュール調整が遅れる可能性があります。
そこで、次のように選択肢を示します。
来週の朝のミーティング、こちらは以下であれば、調整可能です。ご都合はいかがでしょうか。
①25日(水)9:00~9:30
②26日(木)9:30~10:00
③27日(金)9:30~10:00
もしこのどれもご都合が悪ければ、再度調整させてください。
こうしておけば、受け取った側が「②でお願いします」で済みますので、たがいの負担が軽減されます。
拙著『ていねいな文章大全』では、このほかにも、メールやチャットなどのテキストコミュニケーションを円滑にするための「配慮」について、豊富に紹介しています。