2023年の今になって政府が、無期限の滞在が可能で家族の帯同も許される、熟練者のための「特定技能2号」を大幅に拡大しようとしているのを見ると、相変わらずの後手に呆れるしかない。無期限滞在は永住を意味し、事実上の移民政策だ。ところが、なし崩しに広げようとしながら、岸田文雄政権は依然、「移民にあたらず」(松野博一官房長官)と強弁し、相変わらず外国人との共生のグランドデザインを描こうとはしていない。

「安いニッポン」インバウンドはいいが…貧しい国、人権も尊重しない国に外国人は住みたいか『安倍晋三 VS. 日刊ゲンダイ 「強権政治」との10年戦争』
小塚 かおる(著)
定価979円
(朝日新聞出版)

 安い賃金で人権も尊重しない国に、たとえ移民を受け入れようとなっても、外国人が住みたがるのか。もはや手遅れではないか。

 エコノミストなどに取材すると、「それでも日本は治安がいいし、賃金のわりに生活水準が高いので、住みたい外国人はいるだろう」とのことだが、さて。

 いずれにしても、外国人労働者と移民政策については、逃げずに真正面から国会で徹底的な議論をしなければならない時期に来ている。

 結局、アベノミクスによってもたらされた「失われた10年」で何が残ったのか──。庶民は超のつく円安が招く物価高に苦しめられ、グローバル比較で安すぎる給料に甘んじ、経済成長への明るい見通しが持てないまま、訪日外国人が「安い」「安い」と買い物するのを眺めている。

 失敗が明確なアベノミクスを「道半ば」と言い続け、国民生活よりも政権維持とメンツを優先した安倍氏の責任は重い。

小塚かおる(こづか・かおる)
日刊現代第一編集局長。1968年、名古屋市生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒業。関西テレビ放送、東京MXテレビを経て2002年、「日刊ゲンダイ」記者に。19年から現職。激動政局に肉薄する取材力や冷静な分析力に定評があり、「安倍一強政治」の弊害を追及してきた。著書に『小沢一郎の権力論』(朝日新書)などがある。

AERA dot.より転載