トクイテンが開発中の農業ロボット「ティターン」。ミニトマトの収穫の自動化・効率化に向けた取り組みからスタートしている
トクイテンが開発中の農業ロボット「ティターン」。ミニトマトの収穫の自動化・効率化に向けた取り組みからスタートしている

豊吉氏と森氏は岐阜工業高等専門学校時代の同級生という間柄だ。在学中にはチームメイトとしてロボコンにも出場し、2年目には全国で準優勝にも輝いた。その後、豊吉氏はビジネスの道へ、森氏はロボット研究者の道へと進んだが、「一緒に何かやりたい」という話は以前からしていたという。

その領域として「農業」を選んだのは、豊吉氏が「たまたま農家をサポートする機会があった際に、IT活用の可能性を感じたこと」が大きい。

「ビニールハウスで観葉植物を育てていらっしゃる農家で、スプリンクラーでの水やりを自動化できないかと相談を受けました。農場が広いこともあって1回あたり30分から1時間ほどかかっていた作業を、スマホからボタンを押すだけで完結するようにして、ウェブカメラを通じて遠隔から確認できるようにしたところ、すごく喜んでもらえたんです。やっていて楽しかったのと同時に(この仕組み自体は既存の技術を組み合わせて実現したものだったため)まだまだIT化が進んでおらず、もっとITを活用できる余地があると感じたんです」(豊吉氏)

何度か農業の現場へ足を運んでいるうちに、植物や農業への興味が増していったという豊吉氏。トクイテンを立ち上げる前には自ら農業大学校に通って研修も受けた。

もっとも、ロボット×農業というテーマに決めた当初は、自分たちのバックグラウンドを活かしてロボットやシステムの開発に注力し、それを月額定額制で提供していくようなビジネスモデルを検討していたという。ただ農家にヒアリングを実施していく中で「(そのやり方では)必ずしも農家の為にもならないし、農業がよくなるイメージもあまり持てなかった」ことが、ビジネスの方向性を再考するきっかけとなった。

創業前にはロボットベンチャーを100社程度リサーチしたが「(実際に)売り出せる」状況まで進んでいる会社は少なかった。特に農業の現場でメンテナンスフリーでロボットを提供する難易度は高く、大手企業も含めて実現できている例はほとんどない状況だったという。

ロボット領域に長年携わってきた森氏によると「農家の収益構造」がネックの1つだ。ロボットを1台提供するとなった場合、「その年の利益で購入代金をまかなえるかどうか」という考え方をする農家が多く、売り方が難しいことがヒアリングを通じてわかった。

また「ロボットが配置される環境」の問題もある。ロボットをビジネスの課題解決につなげていく上では「(ロボット単体ではなく)ロボットが働く環境も含めて最適化し、その一部をロボットが担うという形式にしないと、継続的に使われるのが難しくなる」と森氏は話す。